生活保護

生活保護の家庭訪問を玄関だけで対応するリスクと注意点

玄関だけの対応は危険か、生活保護の家庭訪問で部屋を見せる本当の理由について解説したスライド

生活保護の家庭訪問を玄関だけで対応できるのか、元ケースワーカーが制度と現場の両面から解説します

「ケースワーカーを部屋に入れるのが怖い」「散らかった部屋を見られたくない」「玄関先で少し話すだけでは駄目なのかな」と悩んでいませんか。

生活保護の家庭訪問は、自分のプライベートな空間に行政職員が入ってくる手続きです。抵抗を感じるのは、決しておかしなことではありません。精神的に人と会うのがつらい時期や、掃除をする余裕さえない時期もありますよね。

一方で、ケースワーカーの家庭訪問には、生活状況や居住実態を確認し、必要な支援につなげるという制度上の目的があります。そのため、毎回理由を説明せずに玄関だけで対応したり、居留守を繰り返したりすると、福祉事務所が必要な調査を行えない状態になることがあります。

私は福祉行政の現場で、生活保護ケースワーカーとして80世帯以上を担当し、その後は係長としてケースワーカーを支える立場も経験しました。家庭訪問を受ける側の不安と、調査を行う行政側の事情。その両方を見てきた立場からお伝えすると、家庭訪問は「とにかく部屋に入れればよい」「拒否したらすぐに生活保護を止められる」という単純な話ではありません。

大切なのは、訪問の目的、室内確認が必要な理由、あなたが室内に入れたくない事情を、お互いに確認することです。

この記事の結論

家庭訪問を一度玄関で対応しただけで、直ちに生活保護が停止されるわけではありません。ただし、福祉事務所が生活状況や居住実態を確認する必要があるのに、正当な理由を説明せず室内への立入りを繰り返し拒むと、生活保護法第28条に基づく調査拒否と判断され、保護の変更・停止・廃止につながる可能性があります。

部屋が散らかっている、体調が悪い、人を入れることに強い恐怖があるといった事情があるなら、黙って居留守を使うのではなく、その事情を具体的に伝えて代わりの方法を相談することが大切です。

  • 家庭訪問を玄関だけで済ませられる場合と難しい場合
  • 生活保護法第28条の立入調査と指導指示の違い
  • ケースワーカーが部屋のどこを確認するのか
  • 居留守や訪問拒否を続けた場合に起こり得ること
  • 部屋が散らかっている場合に受けられる可能性がある支援
  • 訪問が怖いときにケースワーカーへ伝える具体的な言葉

生活保護の家庭訪問は玄関だけで済ませられるのか

家庭訪問を玄関だけで済ませられるかどうかは、その日の訪問目的や世帯の状況によって変わります。

例えば、ケースワーカーが書類を届けるだけで、生活状況の確認を別の日に行う予定になっているのであれば、玄関先で短時間の対応をして終わることもあります。感染症にかかっている場合や、急な体調不良で長時間の面談が難しい場合も、その日の訪問を玄関やインターホン越しの確認だけに変更してもらえる可能性があります。

しかし、年間訪問計画に基づく家庭訪問として、生活状況、健康状態、居住実態、世帯構成などを確認する必要がある場合は、玄関先で数分話すだけでは訪問の目的を達成できないことがあります。

つまり、「玄関対応は一切認められない」という話ではありませんが、受給者が一方的に、今後の家庭訪問はすべて玄関だけにすると決められるわけでもありません。

室内への立入りを拒否したら、すぐに生活保護が止まるのか

家庭訪問での室内立ち入りが原則であり、法律に基づく調査と支援が目的であることを説明するスライド

家庭訪問には生活状況を確認する調査と、必要な支援を考える目的があります

一度だけ室内への立入りを断ったからといって、その場で生活保護費が止められるわけではありません。

例えば、発熱している、家族が感染症にかかっている、パニック症状が出ている、過去の被害体験から異性を室内に入れることに強い恐怖があるなど、室内での面談が難しい事情は人によって異なります。

こうした事情を説明したうえで、訪問日を変更したり、面談時間を短くしたり、別の職員の同行を相談したりすることは可能です。希望した対応が必ず認められるとは限りませんが、事情を伝えずに拒否する場合と、具体的な事情を伝えて調整を求める場合とでは、福祉事務所の受け止め方も大きく変わります。

一方で、生活保護法第28条では、保護の決定や実施に必要がある場合、福祉事務所が収入、資産、健康状態その他の事項を調べるため、職員を居住場所に立ち入らせることができると定めています。

そして、必要な報告をしない、虚偽の報告をする、立入調査を拒む、妨げる、避け続けるといった場合には、保護の変更・停止・廃止を行うことができるとされています。

詳しい条文は、厚生労働省の生活保護法で確認できます。

「一度断った」と「必要な調査を拒み続けた」は同じではありません

体調不良などの事情を説明し、別の日程を決めたのであれば、通常は直ちに調査拒否と扱われるものではありません。

問題になりやすいのは、訪問の必要性を説明されても理由を伝えず、長期間にわたって面会や室内確認を避け続ける場合です。福祉事務所から連絡が来たら、放置せず、「なぜ室内での確認が必要なのか」「別の日や別の方法では難しいのか」を確認してください。

生活保護法第28条の調査と第27条の指導指示は別の仕組み

生活保護の家庭訪問に関する説明では、「訪問を断ると指導指示が出て、すぐに停止される」と一つの流れで語られることがあります。しかし、制度上は少し整理が必要です。

根拠 主な内容 拒否等が続いた場合
生活保護法第28条 保護の決定や実施に必要な報告、立入調査、検診などを行うための規定です。 必要な報告や立入調査を拒否、妨害、忌避した場合は、保護の変更・停止・廃止の対象になる可能性があります。
生活保護法第27条 生活の維持、向上や保護の目的達成に必要な指導・指示を行う規定です。本人の自由を尊重し、必要最小限にとどめることも定められています。 指示に従わない場合は、第62条に基づく手続きが問題になります。
生活保護法第62条 第27条による指導・指示などに従う義務と、違反した場合の処分を定めています。 保護の変更・停止・廃止を行う場合には、本人に弁明する機会を与えることが定められています。

実際の対応は、拒否した理由、これまでの経過、福祉事務所が何を確認しようとしていたのかなどによって異なります。

少なくとも、「ケースワーカーの気分で、翌月から突然保護費をゼロにできる」という制度ではありません。処分が行われる場合は、根拠や理由を記した通知が必要です。

感染症や精神的な事情がある場合は先に相談する

室内への立入りが難しい事情があるなら、訪問日まで黙って我慢する必要はありません。

次のような事情がある場合は、できるだけ早く担当ケースワーカーへ伝えてください。

  • 発熱、インフルエンザ、新型コロナウイルスなどの感染が疑われる
  • うつ状態や強い不安があり、人と長時間話すことが難しい
  • パニック症状があり、複数の職員が部屋に入ると症状が悪化する
  • 過去の暴力や性被害などにより、異性を室内に入れることが怖い
  • 家族の介護や子どもの状態により、予定された時間に対応できない
  • ペットが興奮するため、安全に対応できる準備が必要である
  • 部屋が散らかっており、通路を確保するために少し時間が必要である

診断書がなければ一切配慮してもらえないとは限りません。まずは現在起きていることを、できるだけ具体的に伝えることが大切です。

電話で伝えにくいときの言い方

「家庭訪問を拒否したいわけではありません。ただ、今は人が部屋に入ると強い不安が出ます。短時間にする、同行者を減らす、別の日にするなどの方法を相談させてください」

このように、訪問そのものを拒絶するのではなく、受けられる条件を一緒に考えたいと伝えると、話が通じやすくなります。

家庭訪問の頻度は世帯状況によって変わる

「ケースワーカーは毎月来るのか」「年に1回だけなのか」と気になる方も多いかなと思います。

厚生労働省の生活保護実施要領では、家庭訪問について、世帯の状況に応じて必要な回数を訪問し、原則として少なくとも1年に2回以上訪問することとされています。

ただし、グループホームなどを利用しており、施設管理者などが日常的に生活実態を把握し、その状況が福祉事務所へ報告されている一定の世帯については、年1回以上の訪問とすることが認められています。

詳しくは、厚生労働省の生活保護法による保護の実施要領をご確認ください。

世帯の状況 訪問時に確認されやすい内容
生活保護を受け始めたばかり 生活費の管理、住居の状態、医療や介護の利用状況、必要な申請、世帯状況などを確認するため、比較的短い間隔で訪問されることがあります。
就労や求職活動を進めている 就労状況、収入申告、求職活動で困っていること、体調や勤務継続の見通しなどが確認されます。
病状や生活状況に変化がある 受診状況、服薬、介護や障害福祉サービスの必要性、家族の負担などを確認するため、訪問計画が見直されることがあります。
生活が安定している 現在の生活が維持できているか、制度上の届出漏れがないか、困りごとが新たに生じていないかなどを定期的に確認します。

訪問回数が多いからといって、必ず不正受給を疑われているわけではありません。ただし、「訪問が多いほど手厚い支援を受けている」とも一概には言えません。

生活状況が不安定な場合、収入や世帯構成の変化が多い場合、長期間面会できていない場合など、調査上の必要性から訪問が増えることもあります。

訪問頻度が気になるときは、「私はどのような目的で、この頻度の訪問になっているのでしょうか」とケースワーカーへ確認して構いません。理由が分かるだけでも、不安はかなり小さくなるはずです。

居留守を続けると連絡なしの訪問が行われることがある

居留守を続けると抜き打ち訪問の確率が上がり、最終的に指導指示から保護の停止や廃止に繋がるリスクを図解したスライド

約束した訪問で会えない状態が続くと、日時を変えた訪問や事前連絡のない訪問が行われることがあります

家庭訪問の日時を約束していても、当日になると人に会うのがつらくなったり、部屋を見られるのが怖くなったりすることはあります。

ただ、ケースワーカーが来ていると分かっているのに居留守を使い、その後も連絡をしない対応はおすすめできません。

ケースワーカーから見ると、単に眠っていたのか、外出していたのか、倒れているのか、別の場所で生活しているのかを判断できないからです。高齢者や持病のある方であれば、安否確認が必要になる場合もあります。

厚生労働省の実施要領では、年間訪問計画に基づく訪問だけでなく、世帯の状況に変化があると認められるなど、必要がある場合には随時訪問を行うとされています。

すべての家庭訪問について事前連絡が必須とされているわけではありません。そのため、約束した訪問で会えない状態が続いた場合や、生活状況を早めに確認する必要がある場合には、事前連絡なしで訪問されることがあります。

一つの状況だけで不正受給と決まるわけではありません

玄関に複数人分の生活用品がある、訪問しても長期間会えない、近隣や関係機関から情報が寄せられたといった事情は、確認のきっかけになることがあります。

ただし、靴や洗面用品が複数あるだけで、直ちに未申告の同居人がいると決まるわけではありません。家族や友人が一時的に訪問している場合もあります。疑問を持たれたときは、事実を落ち着いて説明することが大切です。

訪問日に対応できなかった場合は、気づいた時点で福祉事務所へ連絡しましょう。

「寝込んでいて気づきませんでした」「体調が悪く、インターホンに出られませんでした」「外出の予定が長引きました」と事実を伝え、次の日程を決めればよいのです。

実体験からの補足:居留守と室内確認を拒否し続けたケース

私がケースワーカーとして担当した方の中に、訪問のたびに玄関先で「中には入らないでほしい」と話し、室内の確認ができない状態が続いた方がいました。

その後は訪問しても応答がないことが重なり、福祉事務所内で上司を含めて対応を協議しました。本人が申告した住所で本当に生活しているのかを確認できなかったため、家庭訪問へ応じ、生活実態を確認できるようにしてほしい旨を伝えました。

最終的には上司と一緒に訪問し、室内を確認することができました。生活用品が置かれており、そこで生活している実態も確認できました。

この経験から感じたのは、室内を見せたくない事情を本人が言葉にできないこともある、という点です。行政側が必要な確認をすることは大切ですが、拒否の背景を丁寧に聞く姿勢も欠かせません。

この体験は、訪問を拒否した人が必ず同じ対応を受けるという意味ではありません。個別の事情によって、福祉事務所の判断や対応は変わります。

ケースワーカーは部屋をどこまで見るのか

ケースワーカーは粗探しをするのではなく、台所の様子や衛生状態など、見える範囲での生活の安全を確認することを示すスライド

ケースワーカーは家宅捜索をするのではなく、生活状況や安全を確認します

「タンスの引き出しやクローゼットを勝手に開けられるのではないか」と不安に思う方もいます。

生活保護法第28条では、必要な場合に居住場所へ立ち入り、資産、収入、健康状態その他の事項を調査できると定めています。一方で、同条には、この権限を犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないとも明記されています。

家庭訪問は警察の家宅捜索ではありません。ケースワーカーが本人の同意や説明なしに、手当たり次第に私物を取り出して調べることを前提とした制度ではないんですね。

通常の訪問では、会話をしながら、主に次のような生活上の状況を確認します。

  • 居住実態:申告された住所が実際の生活拠点になっているか。
  • 世帯の状況:申告している世帯構成と実際の生活状況に大きな違いがないか。
  • 健康状態:顔色、歩行、会話の様子などに大きな変化がないか。
  • 生活環境:電気、ガス、水道などが使え、安全に生活できる状態か。
  • 衛生状態:ゴミの蓄積、害虫、悪臭など、健康や近隣生活に影響する問題がないか。
  • 食生活:食事を取れているか、買い物や調理で困っていないか。
  • 服薬や通院:必要な医療を受けられているか、薬の管理で困っていないか。
  • 支援の必要性:介護、障害福祉、家計相談、就労支援などにつなぐ必要がないか。

訪問目的によっては、「こちらの部屋も確認させてください」「この生活用品はどなたのものですか」などと質問されることがあります。

その場合でも、何を確認するためなのかを尋ねて構いません。

不安なときは身分証と訪問目的を確認する

生活保護法第28条に基づいて立入調査を行う職員は、身分を示す証票を携帯し、関係者から求められた場合には提示しなければならないとされています。

知らない職員が突然来た場合は、「お名前と所属を確認させてください」「今日は何を確認するための訪問ですか」と聞いて大丈夫です。不審に感じる場合は、ドアを開ける前に福祉事務所の代表番号へ電話して、職員の在籍を確認する方法もあります。

見られたくない書類、下着、写真、趣味の物などがある場合は、事前に箱や引き出しへしまっておけば問題ありません。

ただし、福祉事務所が特定の収入、資産、世帯構成などについて合理的な確認を必要としている場合は、関係する資料の提出や説明を求められることがあります。その際は、なぜ必要なのかを確認しながら対応してください。

掃除ができていなくても、それだけで保護は廃止されない

部屋が散らかっていてもそのまま見せることが助けを求める合図になり、具体的な支援計画に繋がることを説明するスライド

片付けられない状態を見せることが、必要な支援につながるきっかけになる場合があります

家庭訪問を避けたくなる大きな理由の一つが、「部屋が汚い」「物が多すぎる」「ゴミを捨てられていない」という悩みです。

足の踏み場もない状態を他人に見られるのは、本当につらいですよね。恥ずかしさから、玄関先で帰ってもらいたいと思う気持ちも分かります。

しかし、部屋が散らかっているという事実だけで、直ちに生活保護が廃止されるわけではありません。

ケースワーカーが確認するのは、きれいに整理整頓できているかという採点ではなく、安全や健康が損なわれていないか、生活上の支援が必要ではないかという点です。

片付けられない背景には、さまざまな事情がある

部屋を片付けられない理由を「本人がだらしないから」とだけ考えるのは適切ではありません。

  • うつ状態などにより、起き上がったりゴミをまとめたりする気力が出ない
  • 認知機能の低下により、物の整理や分別が難しくなっている
  • 発達上の特性などから、片付けの手順を組み立てることが難しい
  • 腰痛、関節痛、麻痺などがあり、ゴミを運ぶことができない
  • 家族の介護や子育てで、自分の生活を整える余裕がない
  • 孤立しており、誰にも相談できないまま物が増えてしまった
  • ゴミの分別方法や回収場所が分からない

本人が「ただ片付けが苦手なだけ」と思っていても、医療、介護、障害福祉などの支援が必要な状態が隠れていることがあります。

片付け支援には利用条件があります

室内を見せれば、必ず無料で大掃除をしてもらえるわけではありません。

介護保険や障害福祉サービスの生活援助は、対象者の状態、認定、支援計画などに基づいて利用します。また、日常的な掃除は対象になっても、大量の不用品処分や家全体の大掃除までは対象外になることがあります。

それでも、ケースワーカーが状況を把握することで、地域包括支援センター、障害福祉の相談窓口、保健師、医療機関、自治体のごみ収集支援、地域の支援団体などにつながる可能性があります。

訪問前に完璧に掃除しようとして、体調を崩す必要はありません。

最低限、職員が安全に入れる通路を確保できそうなら確保し、難しければ「足元が危ないので気をつけてください」と伝えてください。

そして、できれば次のように正直に話してみてください。

「片付けなければならないことは分かっていますが、今は一人で進められません。どこに相談すればよいか一緒に考えてほしいです」

これは甘えではありません。制度や支援を使って生活を立て直すための、大切な相談です。

玄関だけの対応や居留守を続けることで生じる本当のリスク

家庭訪問を玄関だけで対応したからといって、住宅扶助や医療扶助がその場で個別に停止されるわけではありません。

本当のリスクは、福祉事務所が保護の実施に必要な生活状況を確認できない状態が長期間続くことです。

確認できない状態が続けば、福祉事務所は追加の訪問、電話連絡、文書による連絡、関係資料の確認などを行うことになります。それでも必要な調査ができず、正当な理由のない拒否や忌避に当たると判断されれば、生活保護法第28条などに基づく保護の変更・停止・廃止が検討される可能性があります。

居住実態を確認できないと住宅扶助にも影響し得る

生活保護には、日常生活費に充てる生活扶助とは別に、家賃に充てる住宅扶助があります。

住宅扶助は、生活保護を受けている人が実際に居住する住まいの家賃を支える制度です。そのため、申告している住所が本当に生活の拠点になっているかは、保護を実施するうえで大切な確認事項です。

ただし、「室内を一度見せなかったら翌月から住宅扶助だけが止まる」と決まっているわけではありません。

まずは連絡や再訪問などによって、居住実態を確認しようとするのが通常です。本人から事情を聞いたり、必要な資料を確認したりすることもあります。

影響するのは住宅扶助だけとは限りません

必要な立入調査を正当な理由なく拒み続け、生活保護法第28条に基づく保護の停止や廃止が行われた場合には、住宅扶助だけでなく、生活扶助や医療扶助などを含む保護全体に影響する可能性があります。

だからこそ、室内に入れたくない事情がある場合は、単に拒否するのではなく、事情と代替案を早めに相談することが大切です。

現場からの視点:住まい探しでは支援者が間に入る意味が大きい

私がケースワーカーとして勤務していたとき、生活保護を受けている方の住まい探しに同行したことがあります。

本人だけで不動産会社へ相談すると、生活保護を受けているという理由だけで難色を示されることもありました。しかし、ケースワーカーが住宅扶助や家賃の支払い方法、入居後の相談体制を説明することで、不動産会社や大家さんに安心してもらえる場合があります。

もちろん、ケースワーカーが同行すれば必ず審査に通るわけではありません。それでも、本人だけでは説明しにくい制度や支援体制を補足できることには意味があります。

生活保護を受けながら部屋を探す際の注意点は、次の記事でも詳しく解説しています。

関連記事:生活保護で賃貸の審査が通らない原因と対処法

家庭訪問を断っただけで医療扶助が自動的に打ち切られるわけではない

ここは誤解されやすいところなので、はっきり分けて考えましょう。

玄関先で対応した、あるいは一度家庭訪問を断ったという理由だけで、次の医療券が自動的に発行されなくなる制度ではありません。

医療扶助の必要性は、本人の病状、受診の必要性、医療機関の判断、保護の実施状況などを踏まえて取り扱われます。ケースワーカーが家庭訪問で顔色を見ただけで、治療の必要性を医学的に決定するわけではありません。

ただし、家庭訪問や必要な調査を長期間拒み続けた結果、法律に基づいて生活保護全体が停止または廃止された場合は、医療扶助にも影響が及ぶ可能性があります。

つまり、次の2つは分けて考える必要があります。

状況 考え方
体調不良などで一度訪問を延期した それだけで医療扶助が自動的に止まるわけではありません。事情を連絡し、次の訪問日を相談します。
必要な調査を正当な理由なく長期間拒んだ 保護全体の変更・停止・廃止が検討され、その結果として医療扶助にも影響する可能性があります。

急病時は家庭訪問の問題とは分けて受診を相談する

高熱、激しい痛み、呼吸困難、意識障害など、緊急性がある場合は、家庭訪問を断ったことを気にして受診を我慢しないでください。

開庁時間内であれば福祉事務所へ連絡し、夜間や休日など連絡できない場合は、医療機関へ生活保護を受けていることを伝えたうえで受診方法を相談します。地域や医療機関によって手続きが異なるため、受診後はできるだけ早く福祉事務所へ報告してください。

現場からの視点:受診を遠慮する必要はない

私がケースワーカーをしていたとき、「税金を使って病院へ行くのが申し訳ない」と受診を遠慮していた方がいました。

しかし、病気を放置して重症化すれば、本人がさらに苦しむだけでなく、治療期間も長くなる可能性があります。必要な受診をして体調を整えることは、生活を立て直すためにも大切です。

受診に抵抗がある方には、プライバシーに配慮しながら医療機関との手続きを進めていました。どのような方法を取れるかは自治体や医療機関によって異なりますが、恥ずかしさや不安があること自体をケースワーカーへ相談して構いません。

夜間や休日など、医療券が手元にないときの受診方法は、次の記事で解説しています。

関連記事:生活保護で医療券なし受診は可能?緊急時の手順を解説

家庭訪問を受けるのが難しいときの正しい対処法

連絡なしの訪問や、調査拒否と受け取られる状況を避けるために大切なのは、完璧に対応することではありません。

対応できないときに、その事実を伝えることです。

訪問日時に都合が悪くなった場合

急な体調不良、通院、家族の事情などにより、約束した時間に対応できなくなることは誰にでもあります。

訪問前に分かった場合は、できるだけ早く担当ケースワーカーへ連絡してください。

「本日予定していた家庭訪問ですが、急に体調が悪くなり、長時間の面談が難しい状態です。訪問日を変更していただけないでしょうか」

この一言があるだけで、居留守を使って連絡を絶つ場合とは状況が大きく変わります。

電話が苦手な方は、自治体が認めている連絡方法の範囲で、メール、ファクス、手紙、支援者からの連絡などが使えないか相談してください。

部屋の奥まで入ってほしくない場合

ワンルームや狭い部屋であれば、玄関を開けただけで生活空間の多くが見えてしまうこともあります。一方、複数の部屋がある住居では、寝室などに入ってほしくないと感じる方もいるでしょう。

その場合は、最初からすべてを拒否するのではなく、次のように相談します。

「居間でお話しすることはできます。ただ、寝室には家族の私物があるため、今回確認が必要な場所と理由を先に教えてもらえますか」

福祉事務所側に確認する必要性がある場合は、その理由を説明してもらいましょう。逆に、居間で面談すれば訪問目的を達成できるのであれば、必要以上に別の部屋へ入る必要はありません。

訪問に一人で対応するのが怖い場合

ケースワーカーとの関係が悪化している、過去に強い口調で注意された、言いたいことをうまく話せないといった事情があると、一人で家庭訪問に対応するのが怖くなることがあります。

その場合は、事前に次のような対応を相談してください。

  • 家族や信頼できる支援者に同席してもらう
  • 担当ケースワーカーの上司にも同席してもらう
  • 可能であれば同性の職員に同行してもらう
  • 確認したい内容を事前に書面で教えてもらう
  • 自分が伝えたいことをメモにして渡す
  • 長時間の面談が難しいため、時間の目安を決めてもらう

同席者については、個人情報や面談内容との関係もあるため、事前にケースワーカーへ伝えてください。

家庭訪問前に用意する簡単なメモ

  • 最近変わったこと
  • 収入や仕事の変化
  • 通院や体調の変化
  • 家族や同居状況の変化
  • 困っていること
  • ケースワーカーに確認したいこと

この6項目を紙に書いておくと、緊張していても必要な話をしやすくなります。

ケースワーカーの対応そのものに不安がある場合

ケースワーカーも人間です。丁寧に話を聞く職員もいれば、説明が足りない職員、強い口調になってしまう職員もいます。

家庭訪問が怖い理由が、部屋の状態ではなくケースワーカーの言動にある場合は、その問題も分けて相談しましょう。

次のような順番で伝える方法があります。

  1. 担当ケースワーカーへ、どの言動が不安だったのか具体的に伝える
  2. 担当者へ直接言いにくい場合は、査察指導員や係長などの上司へ相談する
  3. 口頭では伝わりにくい場合は、日時、発言、困ったことを記録して書面で提出する
  4. 支援者、相談員、弁護士などに同席や相談を依頼する

「担当者を絶対に変更してもらえる」とは限りませんが、上司を交えた面談や説明方法の見直しなど、別の対応を検討してもらえる可能性があります。

ケースワーカーの説明に疑問があるからといって、家庭訪問をすべて拒否してしまうと、あなたの立場がかえって不利になる場合があります。調査には協力しながら、問題のある対応については別に改善を求めることが大切です。

処分通知を受け取った場合は理由を確認する

保護の変更、停止、廃止などの処分が行われる場合は、書面による通知を確認してください。

通知を受け取ったら、次の点を整理します。

  • どの法律や事実を根拠に処分されたのか
  • 何を拒否した、または何の指示に従わなかったと判断されたのか
  • 自分が伝えた事情が記録されているか
  • 処分の開始日と具体的な内容
  • 不服申立てに関する案内

内容が分からなければ、福祉事務所へ説明を求めてください。処分に納得できない場合は、通知書に記載された不服申立ての方法を確認し、法テラス、弁護士、生活保護問題を扱う支援団体などへの相談も検討します。

なお、過去に生活保護が停止または廃止されたことがあるからといって、将来の再申請が自動的に認められなくなるわけではありません。現在の収入、資産、生活状況などが生活保護の要件を満たす場合は、改めて申請できます。

過去の経過について確認されることはありますが、「一度廃止された人は二度と申請できない」という制度ではありません。

家庭訪問は生活を立て直す支援につながる機会でもある

家庭訪問の受け入れが病院や就労支援窓口、ヘルパーなど様々な支援を受け取るための入り口であることを示すスライド

家庭訪問で困りごとが分かると、医療、介護、家計、就労などの支援につながることがあります

生活保護は、毎月の生活費を支給するだけの制度ではありません。

生活保護法の目的には、最低限度の生活を保障することに加えて、自立を助けることも含まれています。

ここでいう自立は、仕事に就いて生活保護をやめる「経済的自立」だけではありません。

  • 日常生活自立:食事、掃除、服薬、通院など、日々の生活を安定させること
  • 社会生活自立:家族、近隣、支援機関などとのつながりを持ち、孤立を減らすこと
  • 経済的自立:本人の能力や体調に応じて、就労や収入の確保を目指すこと

病気や障害があり、すぐに働くことが難しい人に対してまで、「就職して生活保護を抜けなければ自立ではない」と考える必要はありません。

まずは病状を安定させること、部屋で安全に暮らせるようにすること、必要なサービスを利用することも、立派な生活再建です。

家庭訪問から検討される可能性がある支援

家庭訪問で困りごとが分かると、ケースワーカーが次のような窓口や支援につなぐことがあります。

  • 医療機関:心身の不調、受診中断、服薬管理などの相談
  • 介護保険:高齢や病気により日常生活へ支援が必要な場合
  • 障害福祉:障害の特性に応じた生活支援や相談支援
  • 保健師:健康状態、精神状態、生活環境などの相談
  • 家計改善支援:生活費の管理、滞納、借金などの整理
  • 法律相談:借金、離婚、相続、賃貸トラブルなどの相談
  • 就労支援:体調や能力を踏まえた仕事探しや就労準備
  • 住まいの支援:転居、家賃、保証人、住環境などの相談

もちろん、ケースワーカーがすべての問題を直接解決できるわけではありません。地域によって利用できる支援も異なります。

それでも、困っている状態を伝えなければ、支援の必要性に気づいてもらうことも難しくなります。

支援を受けることは恥ではありません

部屋を片付けられない。人と会うのが怖い。お金を管理できない。病院へ行けない。

こうした状態は、本人の努力不足だけで起きるものではありません。病気、障害、失業、家族問題、孤立など、さまざまな事情が重なっていることがあります。

福祉の知識は生活を守る力になります。困っていることを伝え、必要な支援を一緒に探すことは、人生を立て直すための行動です。

生活保護の家庭訪問に関するよくある質問

家庭訪問を一度断ったら生活保護は廃止されますか

一度断っただけで、直ちに廃止されるとは限りません。

体調不良や感染症などの事情を説明し、訪問日の変更や別の対応方法を相談したのであれば、通常はその後の調整が行われます。

一方で、福祉事務所が保護の実施に必要な立入調査を行おうとしているにもかかわらず、正当な理由を示さず拒否や居留守を繰り返すと、生活保護法第28条による処分の対象になる可能性があります。

ケースワーカーは連絡なしで訪問できますか

家庭訪問は事前に日時を約束して行われることも多いですが、すべての訪問について事前連絡が義務付けられているわけではありません。

世帯の状況に変化がある、長期間面会できていない、安否や居住実態を確認する必要があるといった場合には、事前連絡なしで訪問されることがあります。

玄関先で顔を見せれば居住実態の確認になりますか

訪問の目的によります。

本人の安否確認や書類の受け渡しだけであれば、玄関で目的を達成できる場合があります。しかし、室内の生活状況、衛生状態、世帯構成などを確認する必要がある場合は、玄関先だけでは不十分と判断されることがあります。

部屋が汚いと生活保護を止められますか

部屋が散らかっているという理由だけで、直ちに生活保護が止まるわけではありません。

ただし、火災、転倒、害虫、悪臭、近隣への影響など、安全や健康に深刻な問題がある場合は、改善に向けた相談や支援が必要になります。

一人で片付けられない事情がある場合は、その事情をケースワーカーへ伝えてください。

訪問時にお茶や菓子を用意する必要はありますか

必要ありません。

家庭訪問は接待を受けるためのものではないので、お茶、菓子、手土産などを用意しなくて大丈夫です。普段の生活のまま対応してください。

担当ケースワーカー以外の職員が来た場合は入れなければなりませんか

まず、所属、氏名、訪問目的を確認してください。立入調査を行う職員には、身分を示す証票の提示を求めることができます。

不審な点がある場合は、福祉事務所の代表番号へ電話し、本当に職員が訪問しているのかを確認しましょう。

生活保護の家庭訪問は玄関だけにこだわらず、事情を伝えて調整しよう

生活保護の家庭訪問を玄関だけで済ませられるかどうかは、その日の訪問目的とあなたの事情によって変わります。

書類の受け渡しや一時的な安否確認であれば、玄関で終わることもあります。感染症、体調不良、精神症状などの事情があれば、訪問日の変更や短時間の面談を相談できる場合もあります。

一方で、生活状況、居住実態、世帯構成などを確認するために室内での面談が必要と説明されているのに、理由を伝えず拒否や居留守を続けることは避けた方がよいでしょう。

生活保護法第28条では、保護の決定や実施に必要な立入調査を拒み、妨げ、避けた場合に、保護の変更・停止・廃止を行えるとされています。

ただし、一度断っただけで直ちに処分されるという単純な制度でもありません。まずは、なぜ室内確認が必要なのかを聞き、あなたが難しいと感じている事情を伝えてください。

次の家庭訪問までにやること

  1. 訪問日時を確認する
  2. 体調や都合が悪い場合は早めに連絡する
  3. 室内に入れたくない事情を具体的に整理する
  4. 確認してほしくない場所がある場合は、その理由を伝える
  5. ケースワーカーへ相談したいことをメモにする
  6. 一人で対応できない場合は、同席者について事前に相談する

ケースワーカーは行政上の調査を行う立場であると同時に、必要な制度や支援につなぐ役割も持っています。ただし、担当者との関係がいつも良好になるとは限りません。

説明不足や強い言い方に不安を感じた場合は、我慢してすべてを受け入れる必要も、家庭訪問を全面的に拒絶する必要もありません。調査にはできる範囲で協力しながら、疑問点を確認し、必要であれば上司や支援者へ相談してください。

部屋が散らかっていても、生活がうまく回っていなくても、支援を受けることは恥ではありません。

今の状態を隠すことより、「一人では難しいので助けてほしい」と伝えることが、生活を立て直す一歩になる場合があります。

福祉の知識は、あなたの生活を守る力になります。家庭訪問を罰や監視だけだと考えず、必要な確認を受けながら、困っていることを相談する機会として使ってみてくださいね。

【重要なお知らせと免責事項】

この記事は、生活保護法、厚生労働省の実施要領および運営者の生活保護ケースワーカーとしての実務経験をもとに、家庭訪問の一般的な考え方を解説したものです。

実際の訪問方法、確認事項、訪問頻度、指導指示、保護の変更・停止・廃止などの判断は、世帯の状況、拒否の理由、これまでの経過、自治体の運用などによって異なります。

家庭訪問に応じることが難しい事情がある場合は、居留守や無断での拒否を続ける前に、担当ケースワーカーまたは上司へ相談してください。

保護の変更、停止、廃止などの通知を受けた場合は、通知書の理由と不服申立ての案内を確認し、必要に応じて法テラス、弁護士、自治体の相談窓口などへ相談してください。制度や運用は改正されることがあるため、最新情報は厚生労働省、管轄の福祉事務所などの公式情報をご確認ください。

-生活保護