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こんにちは。福祉キャリアの羅針盤 運営者の「福祉屋」です。
社会福祉士を目指す過程で、多くの人が最も高いハードルだと感じて不安を抱くのが「相談援助実習」ではないでしょうか。インターネットで「社会福祉士 実習 なにする」と検索しても、出てくるのは「カリキュラムの変更点」や「指定施設の要件」といった難しい制度の話ばかり。実際に現場で自分がどんな服を着て、誰と話し、どんな動きをするのか、その具体的な映像がイメージしづらいですよね。スケジュールはどうなっているのか、毎日書く実習日誌はどれくらい大変なのか、指導者は実習生の何を見ているのか。私自身も実習生のときは、右も左も分からず毎日が緊張の連続でしたし、逆にキャリアを積んでからは指導者として実習生を受け入れた経験もあります。その両方の視点から、教科書には決して載っていない現場のリアルをお伝えします。
- 各施設(特養、病院、障害者支援施設など)で実際に行う具体的な業務内容とスケジュールの詳細
- 実習指導者が口には出さないけれど、裏でこっそり厳しくチェックしているポイント
- 「辛い」「辞めたい」と感じる実習日誌や人間関係を乗り越えるための具体的な思考法
- 現場で遅刻やミスをしてしまったときに、自分の評価を守るためのリカバリー行動
社会福祉士の実習で何をする?現場のリアル
「実習」と一口に言っても、配属される先によってやることは天と地ほど違います。病院に行けば白衣を着て医師と連携しますし、障害者施設に行けば作業着で泥だらけになることもあります。ここでは、新カリキュラムの概要をしっかりと押さえつつ、私が実際に体験した、あるいは指導した現場の生々しい様子を交えて解説します。
新カリキュラムでの実習期間と時間数

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これから社会福祉士を目指す方にとって、まずは時間の枠組みを知ることがスタートラインです。現在は新カリキュラム(2021年度以降の入学者等に適用)が動いており、以前よりも実習時間が大幅に増え、合計で240時間という長丁場の実習が義務付けられています。
具体的には、大きく以下の2つの段階に分かれています。
| 区分 | 時間数・期間 | 主な目的と内容 |
|---|---|---|
| ソーシャルワーク実習Ⅰ | 60時間 (約8日間) |
現場の雰囲気を知り、地域共生社会における包括的な支援の視点を学ぶオリエンテーション的な位置づけです。利用者さんとのコミュニケーションが主体となります。 |
| ソーシャルワーク実習Ⅱ | 180時間 (約24日間) |
実際に個別ケースのアセスメントやプランニングを行い、相談援助の実践力を身につける本番です。カンファレンスへの参加なども求められます。 |
この変更は、単に時間が増えただけではありません。「地域共生社会」の実現に向けた、より包括的な支援体制を学ぶことが強調されているんですね。座学で学んだ「アドボカシー(権利擁護)」や「エンパワメント」といった横文字の理論が、現場のドロドロとした人間関係の中でどう動いているのかを肌で感じる時間です。
(出典:厚生労働省『社会福祉士養成課程における教育内容等の見直しについて』)
実務経験や資格による実習免除の要件
社会人として働きながら資格取得を目指す方にとって、「240時間(約32日間)も仕事を休めない」というのは切実な悩みでしょう。実は、条件によっては実習の一部、あるいは全部が免除される制度があります。
主な免除パターン
- 資格による免除:精神保健福祉士や介護福祉士の資格を既に持っている、あるいは養成課程で介護実習を終えている場合、実習Ⅰ(60時間)などが免除されることがあります。
- 実務経験による免除:指定された施設で、相談援助業務などの実務経験が1年以上(常勤)ある場合、実習自体が免除される可能性があります。
ただし、ここで注意が必要なのは、単に福祉施設に勤務していれば良いわけではなく、「相談援助業務」として従事している実態が厳格に審査される点です。例えば、「肩書きは生活相談員だが、実態は現場の介護業務しかしていない」といった場合は、実務経験として認められないケースもあります。入学時に学校側としっかり確認しておくことをおすすめします。
働きながら資格取得を目指す難しさについては、こちらの記事で働きながら合格するための戦略を詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
高齢者施設でのスケジュールと介護体験

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特別養護老人ホーム(特養)などは、最もポピュラーな実習先の一つです。私は以前、特養で生活相談員をしており、そこで「指導者」として何人もの実習生を受け入れていました。
特養での実習で「何をするか」というと、多くの施設で最初は現場の介護業務に入ることから始まります。「社会福祉士の資格を取るのになぜオムツ交換や食事介助を?」「人手不足の穴埋めじゃないか?」と疑問に思う実習生さんもいましたが、これには指導者側の明確な意図があります。
生活相談員の仕事は、利用者の生活そのものをコーディネートすることです。現場の介護職員がどれだけの肉体的・精神的負担を感じているか、そして利用者が食事や排泄の場面でどのような尊厳(Dignity)の危機を感じているか。それを知らずして、パソコンの前だけで適切なケアプランを立てることなんて絶対にできません。
特養実習のリアルな1日と「時代の変化」
特養実習のルーティン例
- 8:30 申し送り:夜勤者から夜間の利用者の様子(不眠、排泄トラブル、急変など)を聞き取ります。情報の連続性が命です。
- 9:00 コミュニケーション:利用者さんの隣に座り、お話を伺います。認知症の周辺症状(BPSD)がどう出ているか観察します。
- 10:00 介護補助:入浴後のドライヤーかけや、排泄介助の見学を行います。肌の状態や羞恥心への配慮を学びます。
- 13:00 レクリエーション:集団活動の中で、誰が孤立しているか、誰がリーダーシップをとっているかを集団援助(グループワーク)の視点で見ます。
- 16:00 記録・振り返り:見た事実を専門用語(バイタル、ADL、IADLなど)を使って記録します。
私が指導していた際は、少し特殊な環境で、大型の特養(多床室)と、新設された小型の特養(ユニット型個室)の両方を生活相談員として兼務していました。そのため、実習生にはその「両方の世界」を見てもらうことができました。
大型の方は、昔ながらの「措置」の時代を感じさせる環境で、職員は目まぐるしく動き、ご家族の面会もそう頻繁ではありませんでした。一方で、小型のユニット型は「地域とのつながり」を重視しており、家族との交流が非常に活発でした。
このコントラストを見られた実習生さんはラッキーだったと思います。「施設に入れて終わり」だった時代から、「個人の生活(家)を支える」時代へ。実習を通して、そんな福祉の価値観の移り変わりを肌で感じてもらえたら、指導者としてこれ以上嬉しいことはありません。
障害者支援施設におけるコミュニケーション

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障害者支援施設、特に知的障害や発達障害のある方々の施設では、「非言語コミュニケーション」が最大の学びになります。
実は私自身の実習体験は、ある障害者支援施設でした。そこで何をしていたかというと、なんと「しいたけの原木を山へ運ぶ」という作業でした。来る日も来る日も、利用者さんと一緒に、ひたすら重い原木を山に運び、並べる。「休憩」と「丸太運び」しかしていなかったので、正直なところ「今日の実習日誌に何を書けばいいんだ…」と毎日途方に暮れていました(笑)。
しかし、そこには机の上では学べない深い学びがありました。利用者さんの中には、言葉での意思疎通が難しい方も多くいらっしゃいます。ですが、一緒に汗を流し、重いものを協力して持つことで、「あ、今疲れてるな」「今は水が飲みたいんだな」ということが感覚として分かってくるのです。
実はその後、私が仕事で「在宅で生活している療育手帳(知的障害)をお持ちの方」の支援を担当した際に、この時の経験が強烈に役に立ちました。言葉にならないサインを読み取り、生活が成り立つように説明をする。あの時、山で原木を運んでいなければ、その方との信頼関係は築けなかったかもしれません。
「お弁当事件」から学んだアセスメント
実習中にはこんな事件もありました。私が食事をしている最中に、いきなり背後から利用者さんが現れて、私のお弁当の好きなおかずをパクッと食べられてしまったのです。当然おかわりなんてないので、その日は一品少ないお昼ご飯で泣き寝入りです。
ですが、そこで私は「何をするんだ!」と怒るのではなく、冷静にこう考えました。
「これは私だから起きたトラブルだろうか? いや、おそらく日常的に入居者間でも同じようなトラブルが起きているはずだ」と。
イレギュラーな事態に動じず、そこから利用者の日常や隠れた課題を推測する。これこそが、障害分野の実習で学ぶべき「観察」と「アセスメント」の核心です。
病院実習で学ぶ退院支援のスピード感

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現在、私は医療系の仕事に関わっていますが、医療機関(病院)での実習は、福祉施設とは全く異なる独特の緊張感とスピード感が求められます。
医療ソーシャルワーカー(MSW)の実習で特筆すべきは、「退院支援」の切迫感です。今の医療現場は在院日数が非常に短縮されており、入院したその日から退院に向けた調整が始まります。時には医師から「明日退院だから調整して」という無茶振りに近いオーダーが飛んでくることもあり、たった1日で在宅生活の環境を整えなければならないこともあります。
在宅で「看取る」選択肢を作る
実習生には、この「命に関わるスピード感」をぜひ体感してほしいです。本人は「家に帰りたい」と願い、自分の命が尽きることを悟っているケースもあります。
今、病院で亡くなる方が非常に多い中で、どれだけ迅速に多職種と連携して在宅支援を組み立てられるか。それができれば、「住み慣れた家で最期を迎える」という選択肢を患者さんに提供できるのです。これからの地域医療において、最も重要な視点だと私は思っています。
社協や児童相談所で学ぶ権利擁護の視点

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社会福祉協議会(社協)や児童相談所といった行政・半行政機関での実習は、施設内でのケアとは異なり、「権利擁護」や「地域づくり」というマクロ・メゾレベルの視点が中心になります。
社協の実習でおすすめなのは、成年後見制度やボランティアコーディネートの現場を見ることです。今の社会には介護保険などの公的なサービス(フォーマルサービス)は充実しています。しかし、近所付き合いやボランティアといった「インフォーマルサービス」を作り出すのは、非常に難易度が高く、ほんの一握りの専門家にしかできない仕事です。
ボランティアがどのように運営されているかを知ることは、既存の制度では救えない「制度の狭間」にいる人をどう支えるかを学ぶことと同義です。ぜひその難しさと可能性を学んできてください。
また、児童相談所は精神的にかなりハードな現場ですが、虐待対応などを通じて、児童福祉法の限界や親権の問題(民法)など、法律の壁と戦うソーシャルワークの最前線を知ることができます。実習の受け入れ自体が厳しく断られることも多い場所ですが、もし機会があれば非常に貴重な経験になるはずです。
実習目標を達成するための具体的な行動
どの実習先に行っても共通して言えるのは、「お客様」ではなく「学ぶ主体」として振る舞うことです。ただ指示を待っているだけでは、240時間は苦痛でしかありません。
具体的には、以下の3つの行動を意識してみてください。
- 名前を覚える:初日に利用者さんの名前と顔を一致させるのが信頼関係の第一歩です。私は必死でメモを取って、その日のうちに全員覚えるつもりで臨みました。
- 観察の視点を持つ:ただ漫然と見るのではなく、「なぜここに手すりがあるのか(ハード面)」「なぜこの人は今怒ったのか(心理面)」を常に問いかけてください。
- 「ホウ・レン・ソウ」の徹底:分からないことを自己判断で進めるのが現場では一番危険です。忙しそうな職員に声をかけるのは勇気がいりますが、「今、お時間よろしいでしょうか?」の一言があなたの評価と利用者の安全を守ります。
社会福祉士の実習で何をするか迷う時の指針
現場に入ると、予想外の事態や人間関係の悩みに直面します。マニュアル通りにはいかないことばかりです。そんな時、どう立ち振る舞えばよいのか、元実習生の立場と指導者の経験の両方からアドバイスを送ります。
遅刻や欠席時の連絡と社会人のマナー
当たり前のことですが、意外とできていないのが「時間管理」と「連絡」です。ここは指導者が最も厳しく見ているポイントの一つです。
指導者として一番困るのは、無断での遅刻や欠席です。人間ですから、体調を崩したり、電車が遅れたりすることはあります。それは仕方がないことです。100%完璧な人間なんていませんから。大切なのは、「失敗した時にどうリカバリーするか」です。その対応の方に、何倍もの価値があります。
「遅れそうです」と分かった時点で、すぐに実習担当者に電話を入れる。「申し訳ありません、〇〇分ほど遅れます」と伝える。そして到着したら、「ご迷惑をおかけしました」と謝罪する。こういった社会人としての基本的なマナーは、援助技術以前の問題として評価されています。逆に言えば、ここさえしっかりしていれば、技術的な未熟さは「これから学べばいいよ」とカバーしてもらえることも多いのです。
指導者が実習生に求める態度の本音
私が指導者だった頃、実習生に求めていたのは「完璧な知識」や「すごい技術」ではありません。「利用者さんに誠実に向き合う姿勢」と「素直さ」です。
認知症の方、障害のある方に対して、どのような言葉を選び、どのような表情で接しているか。上から目線になっていないか。そこを一番見ていました。ソーシャルワークの理論をすぐに実践しろとは言いませんが、まずは相手の話を否定せずに聞く「共感的理解」ができているかどうかがスタートラインです。
この「共感的理解」ができるようになると、次に「自己覚知(じこかくち)」、つまり自分自身を客観的に見る必要が出てきます。心理学でいう「メタ認知」ですね。「なぜ私は今、イラッとしたんだろう?」「なぜこの言葉を選んだんだろう?」と自問自答できる実習生は、間違いなく伸びます。
実習日誌の記録に苦戦した時の対処法
実習生を最も苦しめるのが、毎日の「実習日誌」です。8時間の慣れない実習を終えて、帰宅後にさらに数時間かけて記録を書く。これは本当に睡眠不足との戦いです。特に私のように、「今日一日、しいたけの原木しか運んでいない!」という日は、書くことがなくて本当に困ります(笑)。
日誌を書くコツは、「事実(Subjective/Objective)」と「考察(Assessment)」を明確に分けることです。
日誌の書き方のコツ
- NG例:「今日は〇〇さんと話して楽しかった。勉強になった。」(感想のみで中身がない)
- OK例:「〇〇氏との会話で、昔の仕事の話をした際に笑顔が見られた(事実)。この笑顔は、自身の役割を再確認したことによる回想療法の効果であり、自尊心の向上につながっていると考えられる(考察)。」
このように、感情だけでなく、学んだ理論と目の前の現象を結びつける訓練だと思って取り組んでみてください。現在はPC作成が推奨されている場合も多いので、テンプレートを活用して効率的に進めましょう。
実習が辛いと感じる理由と乗り越え方
「実習 辛い 辞めたい」という検索ワードが多いように、心が折れそうになることは誰にでもあります。その原因の多くは、実は利用者さんとの関係よりも、職員や指導者との人間関係にあることが多いです。
忙しそうな職員に声をかけづらい、指導者のフィードバックが厳しくて人格否定されたように感じる、自分が役に立っていない無力感に襲われる。これらは多くの実習生が通る「通過儀礼」のようなものです。
「辛くて当たり前」「実習生はお客さんではなく、現場の邪魔をして学ばせてもらっている立場」とある程度割り切ることも必要です。そして、休日は趣味の時間を作ったり、学校の同じ実習生仲間と連絡をとって愚痴を言い合ったりして、メンタルを保つ工夫をしてください。仲間と共有することで「辛いのは自分だけじゃない」と思えることが、最大の救いになります。
自己覚知と共感的理解を深めるプロセス
実習を通じてぜひ達成してほしいのが、前述した「自己覚知(じこかくち)」です。
これは、自分の価値観や偏見(バイアス)、行動の癖を知ることです。例えば、「私は清潔好きだから、汚れた服を着ている利用者さんを見ると無意識に不快感を顔に出してしまう」とか、「年上の男性に対して萎縮してしまう癖がある」といった自分自身の傾向に気づくことです。
指導者からの厳しい指摘は、実はこの自己覚知を促すためのものであることが多いです。自分の弱さや偏見と向き合うのは痛みを伴いますが、それを乗り越えたとき、自分の物差しだけで相手を判断しない、本当の意味で利用者に寄り添える専門職になれるはずです。
社会福祉士の実習で何をするか総まとめ

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社会福祉士の実習は、単なる業務体験ではありません。教科書で学んだ知識が、現場の複雑で答えのない現実の中でどう活用されているかを確認し、自分自身の「専門職としての核(アイデンティティ)」を作るプロセスです。
しいたけを運ぶことも、オムツを替えることも、日誌に赤ペンを入れられて落ち込むことも、すべてがつながっています。無駄なことは一つもありません。これから実習に臨む皆さんが、現場での出会いや失敗を通じて、一回りも二回りも成長されることを心から応援しています。頑張ってくださいね。
実習が終わったらお礼状も忘れずに書いてくださいね。お礼状の書き方や注意事項はこちらで詳しく書いてあります。