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こんにちは。福祉キャリア羅針盤、運営者の「福祉屋」です。
毎日のようにニュースで目にする倒産や人手不足の話題を見て、この業界に未来はあるのだろうかと不安を感じてはいませんか。
特に「介護業界 終わり」「介護職 オワコン」といった言葉をネット検索やSNSで目にすると、今の仕事を続けていて本当に大丈夫なのか、給料は上がる見込みがあるのか、それとも今のうちに別の道を探すべきなのかと悩んでしまうのは当然のことです。
私自身も多くの介護職の方から、現場の崩壊寸前の状況や将来への悲痛な叫びを日々聞いており、その不安な気持ちが痛いほどよくわかります。現場はギリギリで回っているのに、世間からはネガティブな評価ばかり聞こえてくると、心が折れそうになりますよね。
- 2024年に介護業界で倒産が急増している本当の理由とメカニズム
- 訪問介護事業所が「狙い撃ち」にされている背景と報酬改定の裏側
- 今後生き残る「ホワイト企業」と沈んでいく「ブラック企業」の明確な見分け方
- 2040年に向けて個人の年収と市場価値を上げるための具体的なキャリア戦略
介護業界の終わりが危惧される倒産の理由

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「介護業界はもう終わりだ」という悲観的な声が、これほどまでに大きくなったことは過去にありません。なぜ今、これほどまでに業界全体が揺らいでいるのでしょうか。ここでは、単なる噂レベルの話ではなく、実際に起きている倒産データや制度のひずみから、業界が直面している構造的な危機の正体を解き明かしていきます。感情論ではなく、ファクトベースで現状を把握することが、不安を解消する第一歩です。
オワコンと言われる構造的な原因
インターネット上などで「介護業界はオワコン(終わったコンテンツ)」と揶揄される背景には、単なる労働者の愚痴や一時的な不満では片付けられない、日本の社会保障制度そのものが抱える深い断層が存在します。
2024年、介護業界は過去に例を見ない激動のフェーズに突入しました。これまでは「仕事はきついけど、高齢者は増えるから仕事はなくならない」「食いっぱぐれない安定産業」というのが、介護職を選ぶ数少ないメリットの一つでした。しかし、今起きているのは、その「安定」という前提すら崩れつつある現実です。
最大の原因は、「制度疲労」と「コストプッシュインフレ」の同時進行です。これが何を意味するかというと、介護ビジネスの構造的な「詰み」が発生し始めているということです。
価格転嫁できないビジネスモデルの限界

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一般的なビジネスであれば、原材料費や人件費が上がれば、商品やサービスの価格を値上げして対応します。ラーメン屋さんが小麦粉の値上がりでラーメンを値上げするのは自然なことですよね。しかし、介護業界はこれができません。なぜなら、サービスの価格は国が決めた「公定価格(介護報酬)」でガチガチに固定されており、事業所の一存で「明日から値上げします」とは言えないからです。
一方で、支出の方は青天井で上がり続けています。最低賃金の引き上げに伴う人件費の高騰、電気代やガス代といった光熱費の上昇、食事提供にかかる食材費の高騰、さらにはオムツなどの備品代まで、あらゆるコストが急上昇しています。入ってくるお金(売上)の上限は決まっているのに、出ていくお金(経費)だけが増え続ける。この矛盾が限界に達し、構造的に利益が出せない状態に陥っている事業所が激増しているのです。これが「オワコン」と言われる構造的な正体かなと思います。
過去最多の倒産件数が示す崩壊の危機
「倒産」という言葉が、これほど身近に迫った年はありません。データは残酷な現実を突きつけています。2024年の老人福祉・介護事業の倒産件数は172件に達し、前年比で約40%増という爆発的な増加を記録しました。これは2000年に介護保険制度が始まって以来、過去最悪の数字です。
しかし、この数字を見て「なんだ、全国で172件か。自分のところは大丈夫だろう」と安心するのは早計です。実は、表に出ている数字は氷山の一角に過ぎません。
ここが危険!見えない「隠れ倒産」の実態
ニュースになる「倒産(法的整理)」の裏には、倒産手続きにかかる費用すら捻出できずに事業をたたむ、あるいは後継者がいなくて静かに廃業を選ぶ「休廃業・解散」が存在します。2024年のデータでは、これが600件以上も発生しています。
つまり、倒産と休廃業を合わせると、1日あたり2社以上のペースで介護事業所が日本から消滅している計算になります。これは異常事態です。
倒産しているのは誰か?
特筆すべきは、倒産している事業所の内訳です。負債額1億円未満の小規模事業者が全体の約8割を占めています。これは、大手チェーン店ではなく、長年地域に密着して高齢者を支えてきた小さなデイサービスやヘルパーステーションが、次々と力尽きていることを意味します。
小規模事業者は、資金的な体力がないため、一度の報酬改定や、スタッフが一人辞めただけでの減収に耐えられません。「来月の給料が払えない」という事態が突然訪れ、ある日突然「今日で閉鎖します」と告げられるケースも少なくありません。利用者にとっても、働く職員にとっても、明日は我が身の状況が続いています。
訪問介護の報酬改定と事業撤退の背景

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今回の倒産ラッシュの中で、特に異様なのが「訪問介護(ホームヘルプ)」の突出した倒産率です。なんと、倒産件数全体の7割以上を訪問介護が占めるという異常事態が起きています。在宅介護の要であるヘルパーがいなくなることは、国が進める「地域包括ケアシステム」の崩壊を意味しますが、なぜこのような事態になったのでしょうか。
2024年報酬改定の「トリガー」
その直接的な引き金となったのが、2024年度の介護報酬改定です。国は「訪問介護の利益率は他のサービスに比べて高い(平均7.8%)」というデータを根拠に、基本報酬の引き下げを断行しました。しかし、現場からは「とんでもない誤解だ」という怒りの声が上がっています。
この「高い利益率」のデータには統計的な罠がありました。利益率が高いのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などに併設され、移動時間がほぼゼロで効率的にケアを提供できる一部の大手・大規模事業者が数値を押し上げているからです。
一方で、地域の中に点在する利用者の自宅を一軒一軒、雨の日も風の日も自転車や車で回る小規模事業所の実態は、火の車です。移動時間は介護報酬が発生しないため、実質的な「無給労働」に近い状態ですが、ガソリン代や人件費はかかり続けます。
経営を圧迫する3つの要因
- 基本報酬の引き下げ:売上のベースがいきなり削られ、数%のダウンが致命傷に。
- ガソリン代の高騰:地方では必須の車移動ですが、移動コストは全額事業所の持ち出しです。
- 人材確保の困難:報酬が下がれば賃上げ原資がなくなり、他産業に人材を奪われます。
「同一建物減算」と在宅の危機
さらに、効率化を図ろうと集合住宅に拠点を構えれば「同一建物減算」として報酬をカットされる仕組みもあり、事業者は八方塞がりです。この結果、需要はあるのに「採算が合わないから遠くの利用者は断る」「スタッフが確保できないから新規依頼を受けられない」という供給制約型の倒産や撤退が相次いでいます。
もしあなたが訪問介護での独立を考えているなら、この現状を深く理解する必要があります。安易な独立は、私財を投げ打つ結果になりかねません。詳細なリスクについては以下の記事で解説しています。
人手不足で採用不能になる現場の現実

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「求人を出しても電話すら鳴らない」「応募が来ても70代の方ばかり」。これが現場の偽らざる実感でしょう。「人手不足」という言葉は聞き飽きたかもしれませんが、今は「不足」ではなく「枯渇」あるいは「消失」のフェーズに入っています。
厚生労働省のデータなどを見ると、全産業の有効求人倍率が1.1〜1.2倍程度で推移する中、介護関係職種の倍率は常に3倍〜4倍という高水準です。さらに衝撃的なのは訪問介護員(ホームヘルパー)のデータで、地域によっては有効求人倍率が15倍を超えていることです。これは、たった1人の求職者を15の事業所が血眼になって奪い合っているという、異常な椅子取りゲームの状態です。
他産業との「賃金負け」が決定打に
特に深刻なのが、最低賃金の上昇が進む首都圏や都市部です。ここでは、介護業界内での競争だけでなく、他産業との人材獲得競争に完全に敗北しています。
例えば、インバウンド需要で湧くホテル清掃や飲食店の時給が1,300円〜1,500円で募集されている横で、身体的・精神的負担の大きい入浴介助のパート募集が時給1,150円で出されていることも珍しくありません。「どちらが働きやすいか」「どちらが稼げるか」を冷静に考えれば、介護職が選ばれないのは経済合理性として当然の結果です。
| 地域 | 有効求人倍率(例) | 現場の状況 |
|---|---|---|
| 埼玉県 | 5.25倍 | 採用崩壊。派遣社員すら確保できず閉鎖も。 |
| 東京都 | 4.22倍 | 採用困難。他産業への流出が止まらない。 |
| 秋田県 | 2.76倍 | 比較的緩やかだが、若年層の流出が課題。 |
採用コストが利益を食いつぶす「人材倒産」
ハローワークで人が来ないため、事業者は高額な手数料がかかる民間の人材紹介会社に頼らざるを得なくなります。しかし、1人採用するのに年収の30%(約100万円など)の手数料を払っていては、小規模事業所の利益など吹き飛びます。結果、「人がいないから売上が立たない」→「売上がないから高い紹介料が払えない」→「採用できない」という「死の螺旋」に陥り、黒字倒産ならぬ「人材倒産」するケースが増えているのです。
給料が上がらない仕組みと処遇改善
ニュースでは「政府が介護職の賃上げ支援」「月額6,000円アップ」といった見出しが踊りますが、自分の給与明細を見て「どこが上がっているの?」と冷めた気持ちになる人は多いはずです。実感として給料が上がらないのには、明確なカラクリと構造的な要因があります。
複雑怪奇な「処遇改善加算」の罠
2024年6月より、これまでの複雑だった3つの加算が一本化され、「介護職員等処遇改善加算」としてリニューアルされました。最大で24.5%もの加算率が設定されており、制度上は確かに賃上げのチャンスです。
しかし、この恩恵をフルに受けられるのは、キャリアパス制度(昇給の仕組み)や研修体制が整い、職場環境の改善に取り組んでいる「上位の加算を取得できるホワイトな事業者」だけです。事務能力が低く、複雑な申請手続きができない小規模事業所や、そもそも加算の要件を満たす気がないブラックな事業所では、加算自体を算定していないか、一番低い区分でしか算定していません。
その結果、全く同じ資格を持って、全く同じような仕事をしていても、勤務先によって年収に数十万円、場合によっては100万円近い格差が生まれるという理不尽な状況が発生しています。
ケアマネジャーの悲哀と職種間格差
また、今回の改定でも大きな課題として残されたのが、ケアマネジャー(介護支援専門員)の処遇です。ケアマネは処遇改善加算の直接的な算定対象外(事業所独自の手当等に依存)であることが多く、現場のリーダー役であるにもかかわらず、処遇改善加算を満額受給する部下の介護福祉士よりも年収が低くなるという「逆転現象」が起きています。
「責任ばかり重くて給料が安いなら、現場に戻った方がマシ」とケアマネ資格を返上する人も出てきており、これがケアプラン作成の遅延や、地域の介護サービスの目詰まりを引き起こしています。
自分が働いている事業所がどの加算を取っているかを知ることは、自分の給料を守るために必須の知識です。以下の記事で仕組みを詳しく解説しています。
介護業界の終わりを生き抜く将来性と対策

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ここまで、業界を取り巻く暗いニュースや構造的な欠陥についてお話ししてきました。「やっぱりもう辞めようかな」と思った方もいるかもしれません。しかし、ここからは視点を変えてみましょう。
業界全体が淘汰されるということは、裏を返せば「生き残る勝者」が生まれるということでもあります。2040年に向けて拡大し続ける市場の中で、私たちが生き残り、そして豊かになるための戦略をお伝えします。
2025年問題と2040年の市場の将来性
よくニュースで耳にする「2025年問題」と、その先にある「2040年問題」。この2つの違いを正しく理解している人は意外と少ないのですが、ここが将来性を予測する上で最も重要なポイントです。
2つの危機の本質的な違い
- 2025年問題(カネの危機):団塊の世代(約800万人)が全員75歳以上の後期高齢者となり、医療費・介護費が急増する財政的な危機。
- 2040年問題(ヒトの危機):団塊ジュニア世代が高齢者となり、高齢者人口がピークを迎える一方で、支え手である現役世代(生産年齢人口)が激減する物理的な労働力不足の危機。
特に重要なのは2040年です。厚生労働省の推計によると、2040年度には約69万人(シナリオによってはそれ以上)の介護職員が不足すると予測されています。これは、現在の介護職員数の約3割に相当する規模であり、外国人材やロボットをフル活用しても埋めきれない巨大なギャップです。
圧倒的な「売り手市場」の到来
「人が足りない」ということは、ビジネスの視点で見れば、「需要が爆発的に拡大し続ける確実な成長産業」であることを意味します。民間予測では、シニア関連市場の規模は2040年に向けて100兆円を超え、115兆円規模へと拡大するとも見込まれています。
つまり、業界自体がなくなるのではなく、中身が劇的に入れ替わるのです。需要がある以上、適切な戦略を持った事業者と、高いスキルを持った個人にとっては、むしろ自分の価値を高く売ることができる「チャンスの時代」が到来すると言えます。以下の公的なデータも、その深刻さと需要の大きさを裏付けています。
(出典:厚生労働省『第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について』)
辞めたい人が知るべきホワイトな特徴
「もう辞めたい」と思った時、自分を責めないでください。それはあなたが悪いのではなく、あなたが乗っている「船(職場)」が沈みかけているサインかもしれません。これからの時代、経営努力をしないブラック企業は自然淘汰され、職員を大切にするホワイト企業だけが生き残ります。
では、現場レベルで「ここは大丈夫だ」「長く働ける」と判断できる指標は何でしょうか。求人票には書かれない、現場の空気感から読み取るポイントを紹介します。
1. 人間関係の風通しと挨拶
最も基本的なことですが、見学に行った際に、すれ違う職員が明るく挨拶をしてくれるか、笑顔があるかは極めて重要な指標です。余裕のないブラックな現場では、職員は疲弊しきっており、見学者が来ても「忙しいのに誰?」といった冷ややかな視線を向けるか、完全に無視します。また、上司と部下が普通に会話できているか、事務所の空気がピリピリしていないかも要チェックです。
2. 情報の透明性
ホワイトな法人は、経営状況や処遇改善加算の配分ルールを職員に明確に公開しています。「なぜ今月の手当がこの金額なのか」を説明できる組織は信頼できます。逆に、給与明細の内訳が不明瞭で、質問しても「うちはこういう決まりだから」とはぐらかす事業所は要注意です。
3. ICTの活用と業務効率化
これが今後の生存確率を分ける最大の要因かもしれません。タブレットでの記録入力、インカムの導入、見守りセンサーの活用など、テクノロジーへの投資を惜しまない法人は「職員の負担を減らそう」という意思があります。いまだに手書きの記録にこだわり、申し送りに1時間もかけ、FAXでやり取りをしているような事業所は、生産性が低く、将来的な賃上げ原資を生み出せない可能性が高いでしょう。
生き残るホワイト企業を見極める基準

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感情論やイメージではなく、データや数値でホワイト企業を見極めるための具体的な基準を提示します。転職活動や就職活動をする際は、必ず以下の数字をチェックするか、面接で勇気を持って質問してください。これに答えられない、あるいは嫌な顔をする事業所は、その時点で候補から外すべきです。
ホワイト企業を見極める4つの数値基準
- 有給休暇取得率 70%以上: 業界平均は50%程度ですが、70%以上あれば優秀です。これは「誰かが休んでも回るだけの人員配置の余裕がある」ことの証明です。
- 離職率 15%以下(直近3年平均): 介護業界の平均離職率は約14〜15%です。これを下回っているかどうかが分かれ目です。特に「新卒が3年で半分辞める」ようなところは教育体制に問題があります。
- 年間休日 110日以上: シフト制の介護現場において、完全週休2日制+α(祝日分や夏季・冬季休暇)が確保できているかの最低ラインです。105日以下の場合は、慢性的な疲労が蓄積するリスクがあります。
- 処遇改善加算Ⅰ(新加算)の取得: 最高ランクの加算を取れているということは、キャリアパス要件や職場環境等要件をすべてクリアし、行政に届け出ている証拠です。組織としてのコンプライアンス能力の証明になります。
逆に、「求人サイトにいつまでも同じ求人が載っている」「面接で履歴書をほとんど見ずに『いつから来れる?』と即決される」といった事業所は、とにかく頭数が欲しいだけの「倒産予備軍」である可能性が高いため、絶対に避けるべきです。
年収アップを実現する賢い転職の戦略

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業界の構造が激変する中で、個人の生存戦略もアップデートが必要です。「石の上にも三年」「どんな職場でも我慢して尽くす」ことが美徳とされた時代は終わりました。沈む船からは速やかに飛び移り、より良い船に乗り換えるのが正解です。
介護職として年収を確実に上げるためには、主に以下の3つのルートがあります。
1. 成長領域への移動(ホスピス等)
今、最も勢いがあり、処遇が良いのが「ホスピス型有料老人ホーム(医心館モデルなど)」です。末期がんや難病の方(医療依存度の高い方)を対象としており、医療保険を活用することで高い収益性を確保しています。そのため、介護職であっても年収450万〜500万円以上が提示されるケースが増えています。医療的ケア(喀痰吸引など)のスキルは求められますが、見返りは大きいです。
2. 働き方の変更(夜勤専従など)
「夜勤専従」という働き方も、効率的に稼ぎたい層に注目されています。1回2.5万〜3万円といった高単価の夜勤を月10回程度こなすことで、日勤のみの正社員以上の収入を得ることが可能です。また、日中の委員会や会議、行事などから解放され、人間関係のしがらみが少ないというメリットもあります。
3. 資格によるキャリアアップと掛け算
やはり王道は資格です。介護福祉士は必須として、その先の「社会福祉士」や「ケアマネジャー」を取得し、現場管理、相談業務、マネジメント領域へシフトすることで、体力的な限界を超えて長く働くことができます。
特に社会福祉士は、相談援助のプロとして病院のMSWや地域包括支援センターなど、活躍の場が広がります。現場経験を活かして最短で資格取得を目指すなら、以下の記事が参考になります。
大規模化と営業力が鍵?現場で感じるリアルな生存競争
ここまで一般的な「勝ち組」の例を挙げましたが、実際に現場で行政や経営層と関わっている私の肌感覚として、もう少し踏み込んだ「リアルな危機」と「生存戦略」についてお話ししなければなりません。
実は、先ほど「成長領域」として挙げたホスピス型住宅などのビジネスモデルも、決して安泰ではないのです。
「囲い込みモデル」の崩壊と報酬改定のリスク
近年、急拡大してきたホスピス型住宅(医心館モデルなど)ですが、来年度以降、このバブルが崩壊する可能性が非常に高いと私は見ています。
理由は、令和6年度の診療報酬改定です。施設内での「訪問診療」の囲い込み(自社の入居者に自社の医療サービスを集中的に使わせること)が問題視され、報酬が減算の対象となりました。重度ではない患者への訪問診療単価が下がり、従来の利益構造が成り立たなくなってきています。
次は「訪問看護」が標的に?
訪問診療での「囲い込み」がNGになった以上、同じロジックで「訪問看護の囲い込み」も次期改定で規制される可能性が極めて高いです。国は不適切な利益誘導を許しません。「施設を作って医療で稼ぐ」という安易なモデルは、今後通用しなくなるでしょう。
「1法人1施設」の限界とM&Aの加速
また、私が行政にいた頃から痛感していたのが、国による「大規模化への誘導」です。「1つの法人で1つの施設」という小規模な運営スタイルは、もはや制度的に限界を迎えています。
実際に、社会福祉法人の合併や、民間企業によるM&A(合併・買収)が私の住む地方でも活発に行われています。「小規模事業所を潰し、体力のある大手法人に集約させる」というのが、言葉には出しませんが、法改正の端々から感じる国の本音です。
「待っていれば客が来る」時代の終わり

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これからの時代、生き残る法人とそうでない法人を分ける決定的な差は「営業力」です。
従来の福祉業界には「良いケアをしていれば利用者は来る」という職人気質の考えがありましたが、それは競合がいない時代の話です。今は有料老人ホームや特定施設が乱立しています。民間企業では専属の営業マンがいて、必死に地域を回って利用者獲得に動いています。
出世する介護福祉士の共通点
私が仕事でお会いする「出世していく介護福祉士」や「管理者」の方々は、例外なくビジネス感覚を持っています。ただ現場を回すだけでなく、営業数字を意識し、M&Aで規模を拡大するようなアグレッシブな法人で活躍しています。身につけている物やスーツの質が変わっていくのも、こうした「稼ぐ力」のある組織に身を置いているからです。
「福祉で営業なんて」と毛嫌いせず、企業努力として泥臭く営業し、規模を拡大して利益を出そうとしている法人こそが、結果として職員の給料を守り、サービスの質を維持できる時代に入ったと私は確信しています。
介護業界の終わり説に対する最終結論

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結論として、「介護業界 終わり」という言葉は、半分正解で、半分間違いです。
終わるのは、「低賃金・人海戦術・精神論に依存し、職員の犠牲の上に成り立っていた、旧態依然としたブラックな介護ビジネス」です。これは間違いなく2024年を境に、急速に終わっていきます。国も、生産性の低い事業所を守るつもりはありません。
しかし、介護サービスそのものの価値や、ケアを必要とする高齢者の需要は、2040年に向けてますます高まります。現在起きているのは「業界の崩壊」ではなく、持続可能な業界へと生まれ変わるための「大淘汰」であり、健全化へのプロセスです。
私たち個人ができる最大の防御策は、情報を武器にすることです。自分の職場が「終わる側(淘汰される側)」なのか「生き残る側(成長する側)」なのかを冷静に見極めてください。そして、もし前者であるならば、泥船と心中する義理はありません。躊躇なく環境を変える勇気を持ってください。
この激動を、単なる危機として怯えるのではなく、より良い待遇、より人間らしい働き方を手に入れるための「好機」と捉え、行動した人だけが、2040年の勝者となれるはずです。
※本記事のデータは執筆時点のものです。最新の制度や数値については、必ず厚生労働省や各自治体の公式サイトをご確認ください。