
生活保護を申請する人と扶養照会を受けた親族に向けた、扶養照会あんしんガイド
生活保護を申請したいけれど、親や兄弟に連絡されるのが怖い。反対に、役所から扶養照会書が届いたものの、自分の収入や資産をどこまで書けばよいのかわからない。
この二つは、どちらも「扶養照会」に関する悩みですが、立場も確認すべき内容も異なります。申請する本人が知りたいのは、どのような事情があれば親族への直接照会を行わない扱いになり得るのかということです。一方、照会を受けた親族が知りたいのは、援助できない場合にどう回答し、収入欄などの記載について誰に確認すればよいのかということですよね。
私は生活保護のケースワーカーとして80世帯以上を担当し、その後は係長としてケースワーカーからの相談や判断にも関わってきました。ケースワーカーになったばかりの頃は、親族関係を十分に聞き取らないまま、画一的に扶養照会を送ってしまったことがあります。その結果、「なぜ突然こんな書類が届くのか」「何年も関わっていないのに、なぜ収入を書かなければならないのか」と厳しい問い合わせを受けました。
その経験から学んだのは、扶養照会は親族が存在するという理由だけで機械的に行うものではなく、申請者の生活歴や親族関係を丁寧に確認して判断する必要があるということです。ただし、私が経験した一つの福祉事務所の運用を、全国共通の決まりのように語ることもできません。この記事では、厚生労働省の通知を土台にした制度上の取扱いと、私の現場経験を分けながら説明します。
- 扶養は生活保護の「要件」ではなく、実際に援助があれば保護に優先するもの
- 申請者は「拒否すれば止まる」のではなく、照会しない扱いを検討できる事情を具体的に伝える
- 10年程度の音信不通、著しい関係不良、DVや虐待などは重要な判断材料になる
- 照会を受けた親族は「無視が正解」と決めつけず、援助の可否と記載範囲を発行元の福祉事務所に確認する
- 制度上のルールと、元ケースワーカーとしての経験談を混同しない
まず確認したい|申請者と照会を受けた親族では対応が違う

申請者は親族ごとの事情を伝え、照会を受けた親族は回答範囲を役所に確認します
扶養照会の記事で最も混乱しやすいのは、申請者本人の話と、照会書を受け取った親族の話が混ざってしまうことです。最初に、あなたがどちらの立場なのかを確認してください。
| 立場 | 主な悩み | 最初にすること |
|---|---|---|
| 生活保護を申請する本人 | 親族に生活状況を知られたくない。疎遠な親族、過去にトラブルがあった親族、DVや虐待の加害者に連絡してほしくない。 | 申請時に、照会を望まない親族ごとの事情を伝え、「扶養義務の履行が期待できない者」に当たるか個別に検討してもらう。 |
| 扶養照会を受けた親族 | 金銭的な援助はできない。年収・資産・勤務先などを書きたくない。本人と関わりたくない。 | 援助の可否と関係性を整理し、書類を発行した福祉事務所へ、どの範囲まで回答が必要か確認する。 |
申請者には「扶養照会を拒否と書けば自動的に止まる」という全国共通の仕組みがあるわけではありません。照会を受けた親族にも「何も書かずに無視するのが正解」という一律の答えはありません。どちらも、事実関係を整理し、福祉事務所に具体的に伝えることが基本です。
生活保護を申請する人へ|扶養照会をしない扱いになり得る事情

親族から援助を受けられなくても、生活保護の申請を諦める必要はありません
生活保護の申請をためらう理由として、「親族に連絡されたくない」という不安はかなり大きいものです。家族と良好な関係にある人ばかりではありません。長年連絡を取っていない、過去にお金のトラブルがあった、虐待を受けていた、居場所を知られると危険があるなど、親族への連絡が生活再建を妨げる場合もあります。
ここで最も大切なのは、扶養義務者による扶養は生活保護法上の「保護に優先するもの」であり、生活保護を受けるための要件そのものではないという点です。親族から援助を受けられないことを理由に、生活保護の申請そのものを諦める必要はありません。
厚生労働省は、扶養照会を行う前に、親族の存在を確認し、申請者などから親族との関係や扶養の可能性を聞き取る流れを示しています。その結果、「扶養義務の履行が期待できない者」と判断された親族については、個別に慎重な検討をしたうえで、直接の扶養照会を行わない扱いにして差し支えないとしています。
「拒否する」より「照会しない扱いを検討してほしい」と伝える
窓口では、「扶養照会を拒否します」とだけ伝えるよりも、次のように話したほうが、職員は判断しやすくなります。
「生活保護を申請したいです。親族の中に、長期間音信不通の人と、過去のトラブルによって連絡を取れない人がいます。扶養義務の履行が期待できない親族に当たると思うので、直接照会を行わない扱いを個別に検討してください。詳しい事情は人に聞かれない場所で説明したいです」
この伝え方なら、申請する意思と、扶養照会について別途検討してほしい事情を分けて伝えられます。親族に連絡してほしくないと話すことは、申請を取り下げることでも、親族の存在を隠すことでもありません。親族の氏名や続柄を隠すのではなく、「存在はするが、なぜ扶養を期待できないのか」を説明することが大切です。
厚労省通知が示す3つの類型

音信不通や著しい関係不良、DV・虐待などは、個別判断の重要な材料になります
令和3年2月26日の厚生労働省通知では、「扶養義務の履行が期待できない者」の例として、主に次の3つの類型が整理されています。
| 類型 | 通知で示されている例 | 申請時に伝えたいこと |
|---|---|---|
| 親族側に扶養を期待しにくい事情がある | 親族自身が生活保護を受けている、社会福祉施設に入所している、長期入院中である、主な生計維持者ではない非稼働者、未成年者、概ね70歳以上の高齢者など。 | 親族の年齢、病気、施設入所、生活状況など、わかる範囲の事実を伝える。 |
| 著しい関係不良や交流断絶がある | 親族に借金を重ねている、相続をめぐって対立している、縁を切られている、一定期間、例えば10年程度音信不通であるなど。 | 最後に連絡した時期、関係が悪化した経緯、現在の連絡先を知っているか、今後も援助が期待できない理由を具体的に伝える。 |
| 照会が申請者の自立を妨げる | 配偶者の暴力から逃れている、虐待の経緯があるなど、扶養を求めることで申請者の安全や生活再建を損なう場合。 | 暴力や虐待の経緯、連絡によって予想される危険、居場所を知られたくない理由を、話せる範囲で伝える。 |
この3類型は、すべてのケースを限定するものではなく、あくまで例示です。通知に書かれた言葉と完全に一致しなくても、同等の事情があると判断できる場合は、「扶養義務の履行が期待できない者」として取り扱えるとされています。
つまり、「10年経っていないから絶対に無理」「DVの診断書がないから話しても無駄」と決めつける必要はありません。反対に、「自分は連絡してほしくないから必ず照会されない」とも言い切れません。親族ごとの事情を聞き取り、福祉事務所が個別に判断することになります。
(出典:厚生労働省「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」)
10年程度の音信不通は重要な判断材料になる
厚生労働省通知では、親族と一定期間、例えば10年程度音信不通であるなど、交流が断絶している場合は「著しい関係不良」とみなしてよいとされています。さらに、10年程度音信不通であれば、ほかの個別事情の有無を問わず、交流断絶と判断してよいと説明されています。
ここでいう「10年程度」は、10年0か月を1日でも下回れば対象外になるという意味ではありません。正確な期間がわからなくても、それに相当する期間、音信不通であるとの申出があり、その内容を否定する明確な根拠がなければ、該当すると判断して差し支えないという考え方が示されています。
私がケースワーカーとして対応していたときも、「最後に会ったのは親の葬儀だったと思う」「正確な年は覚えていないが、子どもが小学生の頃から連絡していない」という話は珍しくありませんでした。親族関係には、音信不通を証明する証明書など通常はありません。だからこそ、いつ頃から、どのような経緯で、どの程度交流がないのかを、できるだけ一貫して説明することが重要になります。
借金、相続争い、絶縁、暴力、繰り返される金銭要求など、著しい関係不良を示す事情があれば、音信不通の期間だけで判断するものではありません。ただし、期間が短いことだけを理由に自動的に照会を止められるわけでもないため、関係が断絶した経緯を具体的に説明してください。
DV・虐待などで連絡が危険な場合は最初に伝える
親族への連絡によって居場所を知られる、再び暴力を受ける、強い精神的な不調が起きるなど、安全や自立に重大な影響が出る場合は、申請相談の最初に伝えてください。
厚生労働省通知では、扶養照会によって申請者の自立を阻害すると認められる場合は、扶養照会を控える取扱いとしています。夫婦や親の未成熟の子に対する関係のような「生活保持義務関係」にある場合でも、直接の扶養照会を控えることが示されています。
必要に応じて関係機関への確認が行われる場合もありますが、その際も、加害者本人に調査の事実、申請者の居住地、福祉事務所名など、居場所の手がかりとなる情報が知られないよう慎重に行うこととされています。
警察への相談記録や保護命令、診断書などがあれば持参してもよいですが、手元に証拠がないから相談できないわけではありません。まずは「誰に連絡されると危険なのか」「過去に何があったのか」「連絡された場合に何が起きる可能性があるのか」を話してください。人前で話せない内容であれば、個室での面談をお願いして構いません。
申請窓口では親族ごとに事情を分けて説明する

親族を一括りにせず、誰とどのような事情があるのかを分けて伝えます
親族が複数いる場合は、「家族全員に連絡しないでください」と一括して話すより、親族ごとに事情を分けて説明したほうが伝わりやすくなります。
- 父:15年ほど音信不通。現在の住所や電話番号も知らない。
- 母:数年前まで連絡していたが、繰り返し金銭を要求され、現在は連絡を絶っている。
- 兄:相続をめぐって対立し、「今後一切関わらない」と言われている。
- 元配偶者:暴力から避難しており、居場所を知られると危険がある。
このように分けると、どの親族について、どの類型に該当する可能性があるのかを検討しやすくなります。
相談しやすい環境を求めてもよい
親族とのトラブルや虐待の過去を、隣の相談者に聞こえるカウンターで話すのは難しいですよね。私が担当していたときは、話しにくそうな様子があれば、個室に移動したり、可能な範囲で同性の職員に交代したりしていました。
自治体の人員体制によって必ず希望どおりになるとは限りませんが、「人に聞かれたくない事情があります」「個室で話したいです」「一人では説明できないので支援者に同席してもらいます」と伝えて構いません。
生活に困窮しているときは、緊張や不安で説明がうまくできないことがあります。信頼できる知人、親族以外の支援者、医療ソーシャルワーカー、相談支援専門員、生活困窮者自立相談支援機関の職員などに同行してもらう方法もあります。同行者は職員と争うためではなく、話し忘れを防ぎ、あなたの説明を補うための存在と考えるとよいでしょう。
事情説明書は「魔法の停止届」ではなく判断材料
口頭だけでは説明しにくい場合は、A4用紙1枚程度に事情をまとめて持参すると便利です。自治体によっては申出書などの様式を用意していることもありますが、全国共通の「これを出せば必ず扶養照会が止まる書式」があるわけではありません。
書面の目的は、福祉事務所に照会を止めるよう命令することではなく、親族との関係を正確に伝え、職員が個別判断するための材料を残すことです。
| 記載項目 | 書き方のポイント |
|---|---|
| 対象親族 | 氏名、続柄。親族が複数いる場合は一人ずつ分けます。 |
| 最後に交流した時期 | 正確な年月がわからなければ、「平成20年頃」「子どもが小学生の頃」など、わかる範囲で書きます。 |
| 現在の交流状況 | 電話、手紙、SNS、対面、金銭援助などが現在あるか。住所や連絡先を知っているか。 |
| 関係が断絶した経緯 | 借金、相続、暴力、虐待、絶縁、繰り返される金銭要求など、事実を時系列で書きます。 |
| 照会によって予想される影響 | 居場所が知られる危険、精神状態の悪化、再度の金銭要求、生活再建への支障など。 |
| 求める対応 | 「扶養義務の履行が期待できない者に該当するか検討し、直接照会を行わない扱いをお願いします」と記載します。 |
事情説明書の文例
私は生活保護を申請します。兄の〇〇とは、平成〇年頃の相続トラブル以降、電話、手紙、対面を含めて一切交流がありません。兄からは今後関わらないよう求められており、現在の住所や生活状況も把握していません。金銭的・精神的な援助は期待できず、連絡によって再びトラブルになる可能性があります。兄が「扶養義務の履行が期待できない者」に該当するか個別に検討し、直接の扶養照会を行わない取扱いをお願いします。
感情を抑えて立派な文章を書く必要はありません。「仲が悪い」だけで終わらせず、いつから、なぜ、現在どのような状態なのかがわかれば十分です。書面を提出したら、控えを手元に残しておくと、後日の確認にも使えます。
「扶養照会は必ず行う」と言われたときの確認方法
窓口で「生活保護を申請するなら、親族への照会は必ず行います」と説明された場合は、そこで申請を諦めないでください。次のように落ち着いて確認しましょう。
- 「扶養は保護の要件ではないと理解しています。申請書は受け付けてもらえますか」
- 「この親族が扶養義務の履行を期待できない者に当たらないと判断した理由を教えてください」
- 「令和3年2月26日の厚生労働省通知に沿って、個別に検討してもらえますか」
- 「担当者だけでは判断が難しい場合は、査察指導員や上司にも確認してもらえますか」
窓口にいる職員が、必ずしも生活保護の判断を単独で決める人とは限りません。初回相談を会計年度任用職員や面接相談員が担当する自治体もありますし、正規職員であっても経験年数には差があります。担当者を責めるのではなく、上司を含めた組織判断を求めることが現実的です。
申請の流れや必要書類もあわせて確認したい方は、生活保護申請の完全ガイド|必要なものと申請の流れも参考にしてください。
扶養照会を受けた親族へ|収入を書きたくないときの確認方法

扶養照会書が届いたら放置せず、援助の可否と親族関係を整理して伝えます
ここからは、役所から扶養照会書が届いた親族の方に向けた内容です。申請者本人の対応とは分けて考えてください。
何年も連絡を取っていない親族について、突然「収入」「資産」「勤務先」「援助できる金額」などを尋ねられれば、戸惑うのは当然です。「なぜ自分の個人情報を書かなければならないのか」「回答したら毎月仕送りを求められるのではないか」と不安になりますよね。
扶養照会は、書類が届いた親族に対して、すぐに一定額の仕送りを命じる書類ではありません。福祉事務所が、申請者との関係や援助の可能性を確認するために送っているものです。ただし、親族関係や扶養能力によって調査の位置づけは異なります。書類の様式も自治体によって違うため、全国共通の「この欄は必ず空欄でよい」という答えは出せません。
まずは金銭的援助ができるかどうかを整理する
最初に考えるのは、年収の数字ではなく、現実に援助できるかどうかです。
- 自分の世帯の生活費、住宅ローン、教育費、介護費などで余裕がない。
- 自分自身が病気、失業、非正規雇用などで収入が安定していない。
- 申請者と長期間音信不通で、生活状況を把握していない。
- 過去に借金や暴力などのトラブルがあり、今後も関わることが難しい。
- 金銭的援助はできないが、必要であれば限定的な連絡だけは可能である。
「援助できない」と回答することと、申請者の生活保護を妨害することは同じではありません。実際に親族から援助が行われれば、その金額などが申請者の収入として扱われますが、親族が援助できないこと自体によって、直ちに生活保護を受けられなくなるわけではありません。
回答を放置する前に発行元へ確認する

収入や資産の記載範囲に迷ったときは、発行元の福祉事務所に確認します
扶養照会書を見て不快になり、そのまま捨てたくなるかもしれません。ただ、「無視しておけば終わる」とは限りません。福祉事務所が扶養の可能性を確認する必要があると判断している場合は、再度書面が届いたり、電話で確認されたりすることがあります。
そのため、回答したくない項目がある場合は、何も伝えずに放置するより、書類を発行した福祉事務所に次の点を確認するほうが、行き違いを減らせます。
- この照会で確認したい目的は何か。
- 金銭的援助ができない場合、最低限どの項目に回答すればよいか。
- 収入額や資産額の詳細、証明書の添付はなぜ必要なのか。
- 申請者とは長期間疎遠であることを、どの欄に書けばよいか。
- 今後の連絡を希望しない事情がある場合、どのように伝えればよいか。
「扶養照会書を受け取りました。対象者への金銭的援助はできません。また、長期間交流がなく、詳細な収入や資産を書くことには抵抗があります。援助不可であることを回答する場合、どの項目まで記載が必要か、利用目的とあわせて教えてください」
感情的に抗議する必要はありません。担当者に、「援助はできない」「関係性はこうである」「詳細な個人情報の記載には抵抗がある」の3点を分けて伝えてください。
援助できない場合の回答文例
援助できない理由は、長い事情説明にする必要はありません。事実に合う範囲で、簡潔に書きます。
自分の世帯の生活で余裕がない場合
「住宅費、子どもの教育費、家族の介護費等の負担があり、自身の世帯の生活維持で精一杯のため、金銭的援助はできません。」
収入が不安定な場合
「現在、収入が不安定であり、自身の生活費を確保する必要があるため、継続的な金銭援助はできません。」
長期間音信不通の場合
「対象者とは約〇年間連絡を取っておらず、現在の生活状況も把握していません。関係が断絶しているため、金銭的・精神的な援助はできません。」
過去のトラブルで関わることが難しい場合
「過去に金銭トラブルがあり、現在は連絡を絶っています。再び関係を持つことで生活に支障が出るため、援助および今後の直接連絡は困難です。」
収入欄の記載範囲を確認したい場合
「金銭的援助はできません。収入・資産欄の詳細な記載については、必要な範囲と利用目的を確認したうえで回答したいため、担当者からご連絡ください。」
事実と異なる理由を書くことは避けてください。住宅ローンがないのに住宅ローンを理由にしたり、交流があるのに10年以上音信不通と書いたりすると、その後の確認で説明が食い違います。扶養照会は、うまい断り文句を探す場面ではなく、援助の可否と関係性を事実どおりに伝える場面です。
収入欄を空欄にすればよいとは一律に言えない
私がケースワーカーとして扶養照会の回答を確認していたとき、「援助できない」と回答され、収入欄や資産欄が空欄のまま返送されることはありました。私の担当ケースでは、援助できない意思と関係性が確認でき、追加確認の必要性が低いと判断した場合、空欄であることだけを理由に親族へ電話しなかったこともあります。
ただし、これは私が勤務していた福祉事務所での個別判断です。「全国どこでも収入欄は空欄でよい」「援助不可に丸をつければ必ず調査が終わる」というルールではありません。
特に、夫婦や親と未成熟の子の関係、日頃から交流があり援助の可能性が高い場合、申請者を税法上の扶養に入れている場合、明らかな扶養能力があると見込まれる場合などは、福祉事務所がより詳しい確認を行うことがあります。
収入や資産を書きたくない場合は、空欄のまま返すことを「正解」と決めるのではなく、発行元に必要性と記載範囲を確認してください。電話で話した内容は、担当者名、日付、確認結果を手元にメモしておくと安心です。
生活保護では、申請者本人や同一世帯の収入・資産について調査が行われます。一方、別世帯の親族への扶養照会は、親族から援助を受けられる可能性を確認するためのものです。両者を同じ「銀行調査」と考えると不安が大きくなるため、書類の目的がわからない場合は福祉事務所に確認してください。
扶養義務がある親族の範囲と、実際に照会される範囲は同じではない
民法第877条では、直系血族と兄弟姉妹は互いに扶養する義務があると定められています。また、特別な事情がある場合には、家庭裁判所が3親等内の親族にも扶養義務を負わせることができるとされています。
ただし、「民法上3親等内の親族が関係する可能性がある」という説明と、「生活保護を申請すると叔父、叔母、甥、姪まで一律に扶養照会が届く」という説明は同じではありません。
生活保護の実施要領では、夫婦や親子関係にある人のうち扶養の可能性が期待される人、過去に申請者から扶養を受けたなど特別な事情があり、扶養能力があると推測される人など、対象を絞って調査する流れが示されています。親族の範囲だけでなく、これまでの交流、援助実績、扶養能力、申請者との関係を確認して判断します。
私が実務をしていたときも、戸籍上の親族を見つけたからという理由だけで、交流のない叔父や叔母へ一律に書類を送る運用は合理的ではないと感じていました。照会を行っても援助につながる見込みが乏しく、申請者と親族の双方に不要な負担を生むからです。ここでも、制度上の対象範囲と、個別ケースで本当に照会の必要があるかを分けて考える必要があります。
(参考:e-Gov法令検索「民法」第877条)
元ケースワーカーとして伝えたい扶養照会の本質
ケースワーカーになったばかりの頃の私は、「親族がいるなら照会する」という手続きに意識が向きすぎていました。しかし、照会書を受け取った親族から厳しい電話を受ける中で、その書類が人間関係に与える影響を考えるようになりました。
親族への照会によって、申請者がようやく切れていた関係に再び引き戻されることがあります。照会を受けた親族も、過去のトラブルを思い出し、強い怒りや不安を抱えることがあります。だからといって、扶養に関する確認をすべて省略すればよいわけでもありません。実際に親族から援助を受けている場合や、良好な関係があり支援の可能性がある場合は、その事実を生活保護の決定や支援に反映する必要があります。
大切なのは、親族がいるかいないかだけで判断せず、その関係が現在も生きているのか、援助を期待できるのか、照会が申請者の自立を妨げないかを確認することです。これは厚生労働省通知の考え方でもあり、現場で私が失敗から学んだことでもあります。
生活保護は、家族に責任を押しつけるための制度ではありません。病気、障害、失業、家庭環境などによって生活が成り立たなくなった人が、最低限度の生活を確保し、人生を立て直すための最後のセーフティネットです。親族から実際に援助があれば活用しますが、援助を受けられないこと自体を申請の壁にしてはいけません。
生活保護の扶養照会で収入を書きたくないときの最終結論

申請者も親族も、一人で抱え込まず事実を整理して福祉事務所へ相談しましょう
扶養照会については、「申請者は拒否すれば止められる」「親族は無視すればよい」と単純化すると、かえって不安や行き違いが大きくなります。最後に、立場ごとの行動を整理します。
| 立場 | 次に取る行動 |
|---|---|
| 生活保護を申請する本人 | 申請する意思を伝えたうえで、親族ごとに音信不通の期間、関係不良の経緯、DV・虐待、照会による危険などを説明し、「扶養義務の履行が期待できない者」に当たるか個別に検討してもらいます。 |
| 扶養照会を受けた親族 | 金銭的援助ができるかを事実に基づいて回答します。収入・資産欄などの記載に抵抗がある場合は、無視や空欄を一律の正解にせず、発行元の福祉事務所へ利用目的と必要な回答範囲を確認します。 |
親族への連絡が怖いからといって、生活保護の申請を諦めないでください。「生活保護を申請したい」「扶養照会について話しにくい事情があるので、個室で相談したい」と伝えるところから始めて大丈夫です。必要な書類がすべて揃っていなくても、まず福祉事務所へ相談してください。
援助できないのに無理をして「少しなら払える」と書く必要はありません。反対に、書類を見なかったことにして不安を抱え続ける必要もありません。「援助はできない」「詳細な個人情報の記載範囲を確認したい」と、発行元へ事務的に伝えてください。
生活保護の申請条件、車や持ち家、収入と保護費の考え方までまとめて確認したい方は、生活保護の申請条件は?車や持ち家の扱い、扶養照会の基準を解説もあわせてご覧ください。
※本記事は、厚生労働省の通知と運営者の実務経験をもとにした一般的な解説です。扶養照会の書式や確認方法は自治体、親族関係、個別事情によって異なります。DV・虐待など安全に関わる事情がある場合は、福祉事務所、配偶者暴力相談支援センター、警察、法テラスなどへ早めに相談してください。