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こんにちは。福祉キャリア羅針盤、運営者の「福祉屋」です。
生活保護を受給しているご家庭で、18歳になったご自身やお子さんが世帯分離をするべきかどうか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。進学や就職をきっかけに生活保護の18歳が世帯分離する理由について調べると、手続きには親の同意が必要なのか、あるいは将来的にどんなデメリットがあるのかなど、いろいろと気になってしまいますよね。私も福祉の事務所でケースワーカーとして働いていた経験から、この制度は当事者にとって非常に複雑で、人生を左右する大きな分岐点になり得ると痛感してきました。この記事では、18歳成人に伴う生活保護の世帯分離の手続きや、それに伴う経済的な影響について、現場のリアルな視点も交えながら分かりやすく紐解いていきたいなと思います。少しでも皆さんの不安を解消し、前向きな選択をするためのヒントになれば嬉しいです。
- 18歳成人に伴う世帯分離の基本的な条件や法的な手続きの変化
- 大学進学や就職の際に世帯分離を選ぶ理由と直面する現実的なハードル
- 国民健康保険料や介護保険料など世帯分離後に家族全体へ及ぶ経済的なデメリット
- 世帯分離による親の扶養義務の誤解と若者が陥りやすい社会的リスク
生活保護受給中の18歳が世帯分離する条件
ここでは、生活保護を受給している世帯において、18歳を迎えた若者が世帯分離をするための基本的な条件や、民法改正によって実務上どのように手続きが変わったのかについて詳しく解説していきます。進学や就職といった人生の大きな転換期において、制度がどのように関わってくるのかを一緒に見ていきましょう。
民法改正で親の同意なく独立可能に
成年年齢引き下げによる法的なパラダイムシフト
2022年4月1日に施行された民法の一部改正により、日本における成年年齢は長らく規定されていた20歳から18歳へと引き下げられましたね。これによって、18歳になれば法的には完全に「大人」として扱われることになり、社会的な権利と責任を単独で負うことになりました。生活保護を受給している若者にとっても、この法改正は非常に大きな意味を持っています。なぜなら、18歳に達した時点で「親権」から外れることになるからです。
以前であれば、未成年者が実家を出て一人暮らしを始めたいと考えた場合や、福祉事務所で世帯分離の行政手続きを行いたいと申し出た場合、親権者である親の同意が事実上も法律上も必ず求められていました。親が反対すれば、どれだけ本人が自立を望んでも、制度の壁に阻まれてしまうケースが少なくありませんでした。
自分の意思だけで手続きが進められる現実

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しかし現在では、18歳であれば親の同意を一切得ることなく、実家を出て新しい生活をスタートさせ、世帯分離の手続きを自分で進めることができるようになっています。(出典:法務省『民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について』)法的に「居所指定権(住む場所を決める権利)」を自分自身で持っているため、福祉事務所の窓口で「世帯を分けたい」と申し出た際、行政側も本人の明確な意思を無下にはできなくなりました。
【民法改正による18歳の権利の変化(抜粋)】
| 項目 | 18歳未満(未成年) | 18歳以上(新成人) |
|---|---|---|
| アパートの賃貸契約 | 親の同意が必須(無断契約は取消可能) | 単独で契約可能(取消不可) |
| 住む場所の決定 | 親権者が指定する場所に住む義務 | 自分の意思で自由に決定可能 |
| 世帯分離の申し出 | 親権者との調整が前提となる | 本人の意思のみで手続き可能 |
とはいえ、法的に可能になったからといって、すぐにスムーズに独立できるわけではないのが現実の厳しいところです。新しい部屋を借りる際の敷金・礼金といった初期費用や、毎月確実に支払っていく日々の生活費をどうやって工面するかなど、クリアしなければならない現実的な課題は山積みです。自由を手に入れた分、その裏にある大きな責任も同時に背負うことになったと言えますね。
大学進学と奨学金利用に必要な手続き
生活保護制度における大学進学の厳しいルール
大学や専門学校への進学を強く希望する場合、生活保護制度の中では非常に厳格で複雑なルールが存在しています。生活保護法には「他法他施策の優先」や「資産活用の原則」という考え方があり、現在の制度では、原則として生活保護費の中から大学や専門学校などの進学費用、あるいは授業料を出すことは認められていません。高校までは「義務教育に準ずるもの」として一定の支援(生業扶助など)がありますが、高等教育はあくまで「個人の自由な選択によるもの」とみなされてしまうからです。
世帯分離という苦渋の選択

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そのため、生活保護世帯から高等教育への進学を希望する若者は、制度上、進学と同時に世帯分離の手続きをとり、生活保護の対象から完全に外れる必要があります。これを実務上「進学に伴う世帯分離」と呼びます。世帯から抜けるということは、自分の生活費や学費はすべて自分自身で賄わなければならないということです。具体的には、日本学生支援機構(JASSO)などの奨学金(貸与型・給付型)を借り入れ、さらに空いた時間でアルバイトをして、ギリギリの生活を維持していくことになります。
奨学金という名の重い負債と中退リスク
奨学金を利用して進学できたとしても、貸与型の場合は将来的に数百万円という返済義務が生じる借金であることを忘れてはいけません。学費と生活費を稼ぐために深夜まで無理なアルバイトを詰め込み、結果的に学業がおろそかになって留年や中退をしてしまえば、借金だけが残り、再び貧困状態に陥るリスクが極めて高いのが実情です。
進学に伴う世帯分離は、貧困の連鎖を断ち切り、将来の確かな自立に向けた大きな一歩となる可能性を秘めています。しかし同時に、若者に対してあまりにも重い責任と経済的なプレッシャーを一人で背負わせる過酷な仕組みでもあります。大学独自の学費免除制度や、返済不要の給付型奨学金、あるいは民間財団の学習支援など、利用できるサポートが一つでもないか、高校生のうちからケースワーカーや学校の先生と綿密に相談し、周到に準備をしておくことが絶対に欠かせません。
現場からの視点:給付型奨学金と支援の広がり
進学と世帯分離の両立は並外れて大変な道ですが、私が現場で見てきた実態として、支援の輪は確実に広がってきているという希望もあります。
> 奨学金の実態についてですが、これまでは返済型の奨学金が主流でした。しかし最近では、NPO法人やフードバンク団体などの民間福祉団体が、生活保護世帯など進学が困難な家庭に向けて「給付型(返済不要)」の奨学金を創設し、支援を行うケースが増えてきていると肌で感じています。
> 生活保護世帯から分離し、アルバイトで生活費を工面しながら学校に通うのは並大抵のことではありません。それでも、その選択をして学業に励む子どもたちを応援したいという団体が増えているのでしょう。行政にもそうした支援制度の案内が回ってくることが多くなったため、現場のケースワーカーとしては、高校生の段階から該当世帯へ積極的に情報提供を行うよう努めていました。
このように、行政の制度外でも、進学を諦めない若者を支えようとする民間団体の支援は増えています。諦めずに情報を集めてみてください。
単独でのアパート契約と家賃の壁
法律上の「大人」と社会的な「信用」のギャップ
18歳で世帯分離をして一人暮らしを始める場合、最初にぶつかるのが「住まいの確保」という極めて高く、分厚い壁です。先ほど触れたように、法律上は18歳になれば単独でアパートの賃貸借契約を結ぶことができます。未成年者の時のように、親の同意書に判子をもらう必要はもうありません。書類上は、若者本人のサインひとつで契約が成立するはずなのです。
不動産市場における厳しい現実

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しかし、不動産会社や家賃保証会社の実際の入居審査の現場では、法律の建前とは全く異なる厳しい現実が待っています。家主や管理会社は家賃の滞納リスクを最も嫌うため、18歳の若者が単独で契約を申し込んできた場合、ほぼ間違いなく「緊急連絡先」や、場合によっては「連帯保証人」として、安定した収入のある三親等以内の親族の署名を求めてきます。
保証会社の審査と生活保護世帯のジレンマ
実家が生活保護を受給している場合、親自身に十分な稼働収入がないため、保証会社の厳しい審査を通過できないケースが非常に多いです。また、家庭環境が複雑で、親族に連絡を取ることすら困難な若者も少なくありません。
法的な契約能力という権利を手に入れても、不動産市場という社会の仕組みが若者の信用力を認めていないため、結果としてアパートを借りることができず、自立が阻害されてしまうのです。このギャップを埋めるためには、保証人不要で契約できる物件を根気強く探したり、生活困窮者の住居確保を支援しているNPO法人や「居住支援協議会」といった専門の機関に相談し、社会的な信用を補完してもらう仕組みをフル活用していく必要があります。一人で不動産屋を回って心が折れてしまう前に、必ず支援者と繋がることが大切ですね。
実体験からの補足:ケースワーカーの同行という強力な突破口
保証人の壁にぶつかった際、生活困窮者の住居探しにおいて、実は現場のケースワーカーならではの強力な突破口が存在します。以下は、私が過去の記事でも解説している実体験です。
> もうひとつ、現場のケースワーカーならではの視点として、 「ケースワーカーが不動産屋に同行する」 という方法が、実は非常に強力な突破口になることがあります。
> 私自身も、アパートの契約が難航している方の窓口に付き添った経験が何度もあります。受給者一人では断られていた物件でも、支援者が間に入ることで「じゃあ、そこまで言うなら」と審査が通ったケースは少なくありません。
世帯分離をして一人暮らしを始める際も、自分だけで抱え込まず、まずは担当のケースワーカーに相談して不動産屋への同行やサポートをお願いしてみてください。(参考:生活保護で賃貸の審査通らない!原因と独立系保証会社の攻略法)
就職による自立支援と行政の判断基準
「働き損」を防ぐための世帯分離
高校を卒業してすぐに就職し、毎月決まったお給料をもらうようになった場合の世帯分離についても深く見てみましょう。生活保護の基本的なルールでは、同じ家に住んで生計を共にしている家族は「同一世帯」とみなされます。そのため、子どもが働き始めて稼働収入を得るようになると、そのお給料は世帯全体の収入として合算して計算されてしまいます。その結果、世帯の収入が増えた分だけ、親が受け取る生活保護費が減額されてしまう、いわゆる「働き損」と呼ばれる現象が起きてしまいます。
せっかく社会に出て一生懸命働いたのに、手元にお金が残らないのでは、若者の働く意欲や自立へのモチベーションが完全に削がれてしまいますよね。こういった悲しい状況を防ぎ、若者が自分のお給料を将来のための貯金や生活費として自由に使えるようにするために、同じ家に住んだまま(あるいは転居を伴って)世帯分離を行い、親の生活保護費の算定から若者を切り離すという運用が行われています。
但し、生活保護には世帯単位の原則がありますので、同じ家に住んだままでの世帯分離はほぼできないと思ってください。
ケースワーカーによる厳格な自立評価

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ただし、勘違いしてはいけないのは、世帯分離は役所の窓口で「別々にします」と申し出れば、誰でも自動的に認められるような簡単なものではないということです。
行政がチェックする主なポイント(あくまで転居を伴う場合です)
- 収入の安定性:アルバイトなどで月数万円程度の不安定な収入ではなく、フルタイムの就労などで自活できるだけの確実な収入(最低生活費を上回る収入)が継続して見込めるか。
- 生活管理能力:金銭管理や日々の生活を自己管理できる能力が備わっているか。
- 制度活用の妥当性:単に世帯全体の保護費を高く保つための不自然な操作(偽装分離)ではないか。
行政側(福祉事務所のケースワーカー)は、その世帯分離が本当に若者の将来的な自立に繋がるものなのかを客観的かつ慎重に見極めます。まだ就労が不安定な状態で安易に世帯分離をしてしまうと、本人が生活に困窮した際に即座に破綻してしまうリスクがあるためです。自立へのステップは、確実な足場を固めながら進めることが求められます。
現場でのリアルな運用実態:転居を伴う分離が基本
同じ家に住んだままの世帯分離(同一世帯内での分離)について、行政側がどう判断しているか、私が勤めていた福祉事務所の実態をお話しします。(進学ではなく就労する場合)
> 同居したままでの世帯分離という運用も制度上は考えられますが、私が勤めていた福祉事務所では、原則として同居の場合は同一世帯として認定していました。(世帯単位の原則)
> 生活保護法の解釈においても、同居のままでの分離は認められにくい傾向にあります。そのため、18歳を迎えて世帯分離をする若者の大半は転居を伴っており、実家を出て一人暮らしを始めることで新しい生活をスタートさせるケースが実態としてほとんどでした。
このように、「同居のまま財布だけを分ける」という認定は行政としても非常に認めづらく、実態としては一人暮らし(転居)を伴う形での新しい生活のスタートが基本ルートとなるケースがほとんどでした。
申請前に知るべき世帯分離のデメリット
失われる「保護の傘」と医療費の負担
世帯分離は、自分の収入を自由に管理できるようになり、精神的にも親の干渉から離れて自立の道を歩み始められるという大きなメリットがある一方で、申請前に極めて慎重に考えるべき重大なデメリットも存在します。生活保護という強力なセーフティネットの傘から外れるということは、日常生活のあらゆるリスクを自分自身の力と責任で跳ね返さなければならなくなることを意味します。
最も大きな変化は、医療費の扱いです。生活保護を受給している間は「医療扶助」が適用されるため、病院にかかっても原則として自己負担はゼロでした。しかし、世帯分離をして保護から外れれば、社会保険や国民健康保険に加入し、原則3割の医療費を窓口で自己負担しなければなりません。もし働き始めてすぐに大きな病気やケガをして就労できなくなってしまった場合、収入が途絶えるだけでなく、高額な医療費が重くのしかかり、一瞬にして生活が立ち行かなくなる危険性を孕んでいます。
※生活保護受給中の医療扶助や、突発的な受診の際のルールについてより深く知りたい方は、私が福祉事務所の現場で対応していた経験を交えて解説した記事(生活保護で医療券なし受診は可能?緊急時の手順と返金方法を解説)も合わせてご確認ください。
見えない生活コストの増大と精神的プレッシャー

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さらに、実家を出て一人暮らしをするとなれば、家賃だけでなく、電気・ガス・水道などの光熱費、食費、通信費、そして20歳になれば国民年金保険料の支払いなど、これまで見えていなかった「生きるための固定コスト」が容赦なく襲ってきます。
若いうちは手取りの給与も少なく、毎月の支払いに追われて貯蓄すらままならないケースが非常に多いです。「自由」の裏側にある「孤独と経済的な重圧」に耐えられるか、申請前にケースワーカーと家計のシミュレーションを徹底的に行い、万が一の際のSOSの出し方を確認しておくことが絶対に必要です。
ここでお伝えした内容はあくまで一般的な目安に過ぎません。世帯分離の手続きや具体的な認定条件については、お住まいの地域の福祉事務所の裁量によって判断が異なる場合がありますので、正確な情報は必ず公式サイトや窓口でご確認ください。最終的な判断は、ご自身の状況をよく知る専門家(ケースワーカーや相談支援員)にご相談いただきながら、慎重に進めてくださいね。
生活保護における18歳の世帯分離とリスク

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ここからは、世帯分離の手続きが無事に終わった後に待ち受けているかもしれない、さらに深く複雑な経済的リスクについて解説していきます。特に、残された家族全体に波及する社会保険料の仕組みなどは、知らずに手続きをしてしまうと後悔することになりかねません。自立を急ぐあまり、思わぬ落とし穴にはまらないよう、事前に知っておくべきポイントを整理しておきましょう。
世帯合算で国民健康保険料が増加
国民健康保険料の複雑な計算構造
18歳の若者が就職などを機に世帯分離をし、かつ会社の社会保険(厚生年金や健康保険)に加入できない非正規雇用などの場合、自分で国民健康保険(国保)に加入することになります。ここで注意しなければならないのが、世帯分離をすると国民健康保険料の計算方法と負担構造が家族全体で大きく変わってしまうという点です。
日本の国民健康保険料は、個人の収入だけで単純に決まるわけではありません。前年の所得に基づいて「世帯単位」で合算して計算され、世帯主宛てに請求が来る仕組みになっています。保険料は大きく分けて、以下の3つの要素から構成されています。
【国民健康保険料の主な構成要素】
- 所得割(しょとくわり):加入者の前年の所得に応じて計算される部分。
- 均等割(きんとうわり):加入している人数に応じて、一人あたりいくらと定額でかかる部分。
- 平等割(びょうどうわり):世帯ごとに、一世帯あたりいくらと定額でかかる部分(自治体によって異なります)。
「平等割」の二重負担という落とし穴
この中で特に厄介なのが「平等割」です。世帯分離をして、親の世帯と18歳の子どもの世帯という二つの世帯に分かれると、この「平等割」がそれぞれの世帯の世帯主に対して二重にかかってしまうことになります。
親の世帯が生活保護を継続していれば親の国保料はかかりませんが、もし親も同時に保護を抜けるようなボーダーライン上の低所得世帯であった場合、親の世帯の保険料が法定減免されて安くなるケースがある一方で、親子を合わせたトータルの支払い総額で見ると、世帯分離前よりもかえって高額になってしまうリスクが非常に高いのです。特に、まだ働き始めたばかりで手取り十数万円程度の18歳にとって、毎月数千円から数万円の保険料の支払いは、家計を圧迫する重い経済的な足かせとなってしまいます。
子供が就職して生活保護が廃止され、かつ親と子で世帯分離した場合です。特殊な例ですが、世帯はメリットが語られることが多いですが、デメリットもありますので、注意してください。
介護保険の自己負担額が割高になる罠
多世代同居世帯に潜む見えないリスク
もう一つ、18歳の若者自身には直接関係ないように思えても、家族全体の家計に深刻なダメージを与える可能性があるのが「介護保険」に関する罠です。これは特に、おじいちゃんやおばあちゃんなど、要介護認定を受けている高齢者と同居している多世代の生活保護・低所得世帯において注意が必要です。
同じ世帯の中に、医療保険の窓口負担や介護保険のサービスを利用している人が複数いる場合、「高額介護合算療養費制度」や「高額療養費制度」といった負担軽減の仕組みを利用することができます。これは、世帯全体で支払った医療費や介護費用のトータル額を合算し、世帯の所得状況に応じた一定の「自己負担限度額」を超過した分が、後から払い戻されるという非常にありがたい制度です。
世帯合算の恩恵を失うことの恐ろしさ
しかし、若者の自立を目的として世帯分離の手続きを行ってしまうと、行政上は全く別の世帯として扱われるため、この「家族間の費用の合算」ができなくなってしまいます。
合算ができなくなると、それぞれの世帯(個人)の単独の費用だけでは自己負担限度額の基準に到達せず、払い戻しの対象から外れてしまうケースが頻発します。その結果、世帯全体(家族トータル)で財布の紐を握って見たときの実質的な医療・介護の金銭負担額が、世帯分離前よりも大幅に割高になってしまうことがあるのです。
良かれと思って18歳の子どもを世帯分離させたことが、結果的に残された高齢の親族の生活を経済的に圧迫してしまうという波及効果をもたらす可能性があります。世帯分離の手続きを進める前には、必ず世帯全体の医療費・介護費の状況を整理し、トータルの負担がどう変化するのか、慎重すぎるほどのシミュレーションを行うことが不可欠です。
この場合、18歳の子どもに医療費がかかっているということが前提になります。その子どもが課税か非課税によっても変わりますし、国保か後期高齢者によっても取り扱いが異なります。ここでは一般的なお話しかできませんし、市町村によっては減免などの制度がありますので、詳細は行政の窓口で確認してください。
家族手当や扶養手当が外れる経済的打撃
見えないセーフティネットからの離脱
生活保護費の計算とは少し直接的な関係はないかもしれませんが、世帯分離を行うことによって、これまで親世代が受け取れていた様々な手当や税制上の控除の対象から外れてしまう可能性も、家計のシミュレーションにおいて絶対に考慮しておくべき重要なポイントです。
日本の社会保障や税制の仕組みは、「誰が誰を養っているか(扶養しているか)」という世帯の繋がりをベースに設計されているものが数多くあります。例えば、親族の勤務先から支給されていた家族手当や扶養手当、あるいは親が働きに出た際の所得税や住民税の計算において適用される「扶養控除」などです。これらは多くの場合、「世帯が同一であること」あるいは「生計を一にしていること(同じ財布で生活していること)」が適用の絶対条件となっています。
自立と引き換えに失う経済的優遇
「自立した大人」として扱われることの代償
行政窓口で世帯分離の手続きを行い、住民票の上で別の世帯になるということは、社会のシステムから「この若者はもう親の扶養を必要としない、独立した生計を営む大人である」と認識されることを意味します。
これによって、これまで家計の助けとなっていた見えない経済的な保護や優遇の枠組みから完全に外れることになります。親が低所得で働きながら生活保護と併用しているような世帯では、子どもが扶養から外れることで親の税負担が上がり、結果として実質的な世帯全体の可処分所得(自由に使えるお金)が目減りしてしまう恐れがあります。目先の「自分の収入を自由にしたい」という若者のメリットだけでなく、長期的な視点で家計全体のバランスや経済的な打撃を見極め、家族でしっかりと話し合うことが何よりも大切ですね。
親の扶養義務に関する誤解と若者の放逐

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「18歳=自己責任」という極端な曲解
最後に、私が福祉の現場を知る人間として、現在の制度の中で最も危惧し、警鐘を鳴らしたい社会的なリスクについてお話しさせてください。それは、法改正による成年年齢の引き下げが、意図せずして「若者の社会的排除」の口実として使われてしまっているという悲惨な実態です。
18歳で成人を迎えるという法律が変わったニュースを見て、一部の親御さんの間で「18歳になって法律でも大人と認められたのだから、もう親である自分には子どもを扶養する義務は完全に消失した。これからは全て自己責任だ」という極端で誤った解釈が広がってしまうケースがあります。
その結果、まだ十分な収入がなく、経済的に全く自立していない18歳の子どもを、一方的に実家から追い出してしまう(放逐してしまう)ような事態が全国の困窮世帯で顕在化しています。
例えば、養育費問題などがこれに当たります。民法(成年年齢関係)改正 Q&A
法律が定める「生活保持義務」の真実
しかし、これは明確な法律の誤認です。民法上、18歳で「親権(子どもの代わりに行為を決定する権利)」が外れたとしても、子どもがまだ経済的に自立しておらず、進学などの正当な理由で援助を必要としている場合には、親には引き続き「扶養義務(生活保持義務あるいは生活扶助義務)」があると解されるのが一般的な法的な見解です。親権の消滅と扶養義務の消滅はイコールではありません。
生活に精神的・経済的な余裕のない困窮世帯では、このような誤解を盾に強制的な世帯分離が行われがちです。アパートを借りる初期費用はおろか、当面の食費すら持たないまま夜の街に放り出された若者は、その日の寝床を確保するために、SNSを通じて特殊詐欺の受け子といった犯罪に加担させられたり、搾取的な裏社会のトラブルに巻き込まれたりする危険性が極めて高いのです。
これは自立支援などでは決してなく、大人の都合によるネグレクトの合法化であり、本当に深刻な社会的孤立への誘導だと強い憤りを感じています。福祉行政には、若者を守るための正しい法解釈の啓発が強く求められています。
生活保護における18歳の世帯分離まとめ

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自由と責任が交差する18歳のリアル
いかがでしたでしょうか。今回は、生活保護を受給する世帯において、18歳の若者が世帯分離を選ぶ際の複雑な制度の仕組みや手続きの裏側、そしてそこに潜む経済的・社会的なリスクについて、かなり踏み込んだ内容まで一緒に考えてきました。
民法改正によって、若者が早くから自分自身の意思で人生の選択権(自己決定権)を持てるようになったことは、社会参加を促す上で素晴らしい側面を持っています。しかし一方で、法的な「大人」のレッテルを貼られても、それを実質的に支えるための経済的な基盤や、社会的な信用、トラブルから身を守るための知識といったサポートが、まだまだ社会全体として十分に追いついていないという残酷な現実があることもお分かりいただけたかと思います。世帯分離は、単なる役所の窓口での書類上の手続きにとどまらず、その後の人生の軌道を大きく左右する極めて重要な決断なのです。
孤立しないための確実なステップアップを

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焦って形だけの自立を急ぎ、準備不足のまま社会の荒波に飛び込んでしまうと、取り返しのつかない躓きをしてしまう危険があります。年齢が18歳になったからといって、すべてを一人で背負い込む必要は全くありません。
今回ご紹介した社会保険料の計算方法や制度の適用条件は、あくまで一般的な目安であり、世帯の構成や自治体によって大きく異なります。ご自身のケースで具体的にどのような影響が出るのかについては、決して一人や家族の中だけで抱え込まずに、必ず地域の福祉事務所の担当ケースワーカーさんや、専門の自立相談支援機関の窓口に相談するようにしてください。最終的な判断は専門家にご相談いただきながら、客観的なアドバイスを取り入れ、ご自身にとって最も安全で確実な自立への一歩を踏み出していただければと心から願っています。