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こんにちは。福祉キャリアの羅針盤、運営者の「福祉屋」です。
社会福祉士実習、本当にお疲れさまでした。数週間(あるいは数日間)にわたる慣れない環境での実習を終えて、今は「やり切った」という安堵感と、レポートや記録の疲れがどっと出ている頃かもしれませんね。まずは、ご自身をねぎらってあげてください。
さて、実習を終えた学生さんにとって、最後にもう一つだけ大切な仕事が残っています。それが「お礼状」の作成です。実習先への感謝を伝える重要性は分かっていても、「いざ書くとなると、何から手をつけていいか分からない」と悩んでしまう方は本当に多いんです。
お礼状の書き方や施設ごとに使える具体的な例文、時候の挨拶はどう選べばいいのか。封筒の宛名は「御中」と「様」のどちらが正しいのか。そもそもパソコンではなく手書きで書くべきなのか、そして、一体いつまでに出すのがビジネスマナーとして適切なのか。こうした無数の疑問や不安で、なかなか筆が進まない…その気持ち、とてもよく分かります。
この記事では、そんなあなたの悩みを一つひとつ丁寧に解決するために、社会福祉士実習のお礼状に関する準備(用具選び)からビジネスマナー、具体的な書き方まで、網羅的に、そして深く掘り下げて解説していきます。施設別のポイントや、もし「正直、あまり学びがなかったかも…」と感じてしまった実習だった場合の、お礼状を書くための視点についても触れていますので、ぜひ最後までリラックスして読んでみてください。
- お礼状作成に必要な準備(便箋・ペン・封筒)の正しい選び方が分かる
- 封筒の書き方や郵送に関するビジネスマナー(敬称、投函時期)が理解できる
- すぐに使える時候の挨拶や、実習先(施設別)の具体的な例文が学べる
- 「学びがなかった」と感じた時でも、自分の言葉で感謝を伝えるためのヒントが得られる
社会福祉士実習のお礼状、準備とマナー
お礼状は、書かれている「内容」が重要なのはもちろんですが、それと同じくらい、その「形式」や「準備」といった外見にも、送り手の感謝の気持ちや真摯な姿勢が表れるものです。実習の最後を「さすが〇〇大学の学生さんだ」と好印象で締めくくるためにも、まずは基本的なマナーと準備するものから、しっかり確認していきましょう。
お礼状の便箋やペンの選び方

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「何に、何で書くか」。この選択が、封筒を開けた瞬間の第一印象を決定づけます。デジタル化が進む現代だからこそ、アナログな「モノ選び」のセンスが問われる部分ですね。
便箋(びんせん)
便箋は「縦書きの白無地」が鉄則です。
これが最もフォーマルで、相手への敬意を示す形とされています。横書きの便箋は、親しい友人への手紙や、社内の事務連絡などに使われることが多く、目上の方への正式な手紙(特に礼状)としては不向きとされています。縦書きを選ぶこと自体が、「私は日本の伝統的な書簡マナーを理解しています」という非言語的なメッセージになります。
- 色と柄: 色は「白」一択です。清潔感と誠実さが伝わります。キャラクターものや派手な色柄、過度な装飾があるものは避けましょう。罫線(けいせん)だけが入ったシンプルなものがベストです。
- 紙質: ペラペラなレポート用紙のようなものではなく、少し厚手で、インクが程よく染み込むような「和紙」や「高級筆記用紙」を選ぶと、より丁寧な印象を与えられます。文字の拙(つたな)さも、紙質が良いとカバーしてくれる効果がありますよ。
- サイズ: 一般的にはB5サイズ(大学ノートと同じくらい)か、A4サイズが多いです。B5なら三つ折りにして「長形4号」の封筒に、A4なら三つ折りにして「長形3号」の封筒に入れるのが一般的です。
筆記具(ペン)
筆記具は、あなたの文字の「表情」を決定づける重要なツールです。推奨されるのは、「黒インクの万年筆」または「水性(ゲルインク)のボールペン」です。
なぜなら、これらのインクは油性と違って紙に染み込む性質があり、文字に深みと「書き手の体温」のようなものを感じさせてくれるからです。万年筆のブルーブラック(濃い青)も伝統的で素敵ですが、学生さんであれば、最もフォーマルな「黒」を選んでおけば間違いありません。
太さは、細すぎると弱々しく、太すぎると文字が潰れてしまうため、0.5mm〜0.7mm程度が、視認性も良く、力強さも伝わりやすいためおすすめです。
【注意】絶対に避けるべき筆記具
- 油性ボールペン: 日常の事務用品という印象が強く、インクだまり(インクの塊が紙につくこと)ができやすいため、儀礼的な手紙には不向きとされています。「間に合わせで書いた」という印象を与えかねません。
- 消せるボールペン(フリクションなど): これは絶対にNGです。理由は2つあります。①「消せる=修正できる」という簡易さが、一度きりの感謝を伝える礼状には決定的に失礼にあたります。②熱で消えるインクは、郵送中の温度変化や、相手先での保管状況によって、書いた文字が消えてしまうリスクが実際にあるからです。
- 鉛筆やシャープペンシル: 言うまでもありませんが、これらは下書き用です。
手書きとPC、どちらが適切?

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これは本当に多くの方が悩むポイントですね。「字に自信がないから、いっそPCで作成して印刷したい」という相談もよく受けます。とてもよく分かります、私も字が綺麗な方ではありませんから。
ですが、結論から言うと、私は「字が下手でも、絶対に手書き」を強く、強くおすすめします。
手書きが推奨される「心理的効果」
なぜか。福祉業界、特に長年現場にいる実習指導者の方々は、効率性や見た目の美しさよりも、「どれだけ手間と時間をかけてくれたか」というプロセスを重視する傾向が(私も含めて)あります。手書きの文字には、一画一画に込めたあなたの時間と集中力、そして「丁寧に書こう」とした気持ちが、筆跡として必ず残ります。
指導者の方々は、書道家のような達筆な字を求めているわけではありません。求めているのは、たとえ拙くても、丁寧に書かれた文字から伝わる「実習への真摯な姿勢」そのものです。
PCで作成された美しく整いすぎた文章は、どれだけ内容が立派でも、「これはネットの例文をコピー&ペーストしただけかな?」というフィルターを通して読まれてしまう可能性が、残念ながら非常に高いのです。あなたの感謝の気持ちをストレートに伝えるためにも、ぜひペンを取ってみてください。
封筒の書き方、御中と様の使い分け

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封筒は、お礼状の「顔」であり、相手が最初に目にするインターフェースです。ここでマナー違反をしてしまうと、中身を読んでいただく前に「おや?」と思わせてしまうかもしれません。特に「御中」と「様」の使い分けは、社会人でも間違えることが多い、頻出の悩みポイントですね。
封筒選びの基本
まず封筒自体ですが、便箋と同じく「白無地」を選びます。茶封筒(クラフト封筒)は事務用・集金用ですので、絶対にNGです。中身が透けないように紙が二重になっている「二重封筒」が、最も丁寧で望ましいとされています。「喜びが重なるように」という意味合いもあるんですよ。
「御中」と「様」の決定的な違い
敬称ルールの基本
- 御中(おんちゅう): これは「組織や部署」宛に使う敬称です。「中の人へ」という意味ですね。
例:社会福祉法人〇〇会 御中
例:特別養護老人ホーム 〇〇 職員御一同様(※個人名が分からない場合) - 様(さま): これは「特定の個人」宛に使う敬称です。
例:施設長 〇〇 〇〇 様
例:実習指導担当 〇〇 〇〇 様 - 併用は絶対NG: 「〇〇施設 御中 施設長 〇〇 様」のように、「御中」と「様」を同時に使うのは致命的な間違いです。敬称が二重になってしまいます。宛名が「個人名」まで分かっている場合は、組織名(施設名)には何もつけず、最後の個人名に「様」だけをつけるのが正解です。
【正しい宛名の例】
(中央に大きく)
社会福祉法人〇〇会
特別養護老人ホーム 〇〇
施設長 〇〇 〇〇 様
もし、施設長と、お世話になった指導担当者の両方に(1通で)出したい場合、つまり連名で出したい場合は、一番役職が上の方(この場合は施設長)を中央やや右側に書き、その左側に指導担当者の方の名前を書きます。
【連名で出す場合の例】
(中央やや右)
施設長 〇〇 〇〇 様
(その左側)
実習指導担当 〇〇 〇〇 様
※この場合、施設名や法人名は、住所の横に少し小さめに書くか、名前の上に書きます。
封筒の宛名の正しい書き方
宛名は、もちろん「縦書き」です。全体のバランスが難しいですが、以下のポイントを押さえれば大丈夫です。
表面(宛名)
- 住所: 封筒の右端に、都道府県から省略せずに書きます。ビル名や階数も忘れずに。数字は「一、二、三」といった漢数字を使うのが最も丁寧です。(例:「中央区一丁目十番地」または「中央区一ー一〇」)
- 宛名: 封筒の中央に、住所よりも大きな字で、堂々と書きましょう。役職(施設長など)は名前の右上に少し小さめに書くとバランスが良いです。
- 切手: 左上にまっすぐ、丁寧に貼りましょう。デザインは、一般的な普通切手で全く問題ありませんが、もし余裕があれば季節の花などが描かれた記念切手を選ぶと、より細やかな心遣いが伝わるかもしれません(キャラクターものは避けましょう)。
切手の料金不足に厳重注意!
最もやってはいけないミスの一つが「料金不足」です。不足分を実習先に支払わせてしまうことになり、これ以上ない失礼にあたります。便箋の枚数や封筒の重さによって料金が変わる場合がありますので、不安な場合は必ず郵便局の窓口に持って行き、計量してもらってから発送しましょう。
(出典:日本郵便「国内の料金表(手紙・はがき)」)
裏面(差出人)
- 封筒の裏面、中央の継ぎ目を避けて、左下に自分の情報を書きます。
- 住所、氏名に加えて、「〇〇大学 〇〇学部 〇〇学科」と、あなたの所属(大学名・学部学科名)を必ず明記してください。これは、誰からの手紙かを明確にする、実習のお礼状ならではのマナーです。
- 封字(ふうじ): 糊付けして封をしたら、その継ぎ目の上に「〆」または「封」という字を書きます。「〆」が一般的で、「確かに封をしました、途中で誰にも開けられていません」という印になります。「×(バツ)」と書く学生さんがいますが、これは間違いですので注意しましょう。
* 日付(投函日)を左肩に漢数字で書く(例:令和〇年十一月十五日)と、より丁寧になります。
お礼状はいつまでに出すのがマナー?

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感謝の気持ちは鮮度が命です。「鉄は熱いうちに打て」と言いますが、お礼状も全く同じで、実習終了後、できれば翌日、遅くとも3日以内にはポストに投函するのが理想的なマナーです。
実習の疲れが残っているのは重々承知していますが、時間が空けば空くほど、指導者の方の記憶も薄れてしまいますし、「(忘れていたのかな?)」という残念な印象を与えてしまいかねません。どんなに遅くとも、実習終了から1週間以内には相手の手元に届くように心がけましょう。
実習の最終日に「お礼状は追って送付させていただきます」と一言添えておくと、よりスムーズですね。
社会福祉士実習のお礼状、書き方と例文
さて、準備が万端に整ったら、いよいよ中身(本文)の作成です。お礼状には、日本の書簡文化における伝統的な「型」があります。難しく考える必要はありません。この「型」に沿って、あなた自身の「言葉」と「エピソード」を乗せていくことが、素晴らしいお礼状への一番の近道です。特に「何を書けばいいか全く分からない」という方のために、私の苦い(?)経験も踏まえて、具体的なアドバイスをさせていただきますね。
お礼状の基本的な構成と流れ
正式な手紙は、基本的に以下の7つの要素で構成されています。この順番通りに書いていけば、まず間違いなく「マナーを分かっているな」という印象を与えられます。
| 順番 | 要素 | 役割とポイント |
|---|---|---|
| 1 | 頭語(とうご) | 手紙の「こんにちは」にあたる開始の挨拶です。「拝啓」が最も一般的で、失敗がありません。 |
| 2 | 時候の挨拶 | 季節感を表す挨拶。「〇〇の候」や「〇〇のみぎり」など、投函する月に合わせた言葉を選びます。(詳細は後述) |
| 3 | 安否の挨拶 | 相手(施設・職員)の健康や繁栄を祝う言葉。「貴施設におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。」などが定型文です。 |
| 4 | 主文(しゅぶん) | ここが手紙の「本題」です。まずは「さて、この度は~」と書き出し、実習受け入れへの感謝、実習で学んだこと(具体的なエピソード)、今後の決意などを述べます。 |
| 5 | 結びの挨拶 | 手紙を締めくくる挨拶。相手の健康や施設の発展を再度祈る言葉。「末筆ながら、皆様のご健康と貴施設のますますのご発展を~」などが定型文です。 |
| 6 | 結語(けつご) | 手紙の「さようなら」。「敬具」を使います。「拝啓」と「敬具」は必ずセットで使います。 |
| 7 | 後付け(あとづけ) | 日付(投函日)、署名(大学・学部・氏名)、宛名(施設名・個人名)を書きます。本文より少し下に配置します。 |
この7つの流れをしっかり守ることが、丁寧なお礼状の第一歩です。
時候の挨拶、月ごとの例文一覧
「時候の挨拶」は、多くの学生さんが筆が止まる最初の難関かもしれませんね。検索ボリュームも非常に多いポイントです。これは、その手紙を投函する「月」に合わせて選ぶのがマナーです。実習が多いシーズンに合わせて、使いやすいものを漢語調(フォーマル)と口語調(やや柔らかい)でピックアップしました。
基本的には、格式高い漢語調(「〇〇の候」)を使っておけば間違いありません。
【実習シーズン別】すぐに使える時候の挨拶 例文集
■ 春季実習(2月・3月)シーズン
- 2月(立春以降):
- 漢語調:余寒の候(よかんのこう)、梅花の候(ばいかのこう)
- 文例:「余寒の候、皆様におかれましてはますますご清祥のことと~」
- 口語調:「暦の上では春となりましたが、まだ寒い日が続いております。」
- 3月:
- 漢語調:早春の候(そうしゅんのこう)、春暖の候(しゅんだんのこう)
- 文例:「春暖の候、日増しに暖かさを感じる季節となりましたが~」
- 口語調:「桃の節句も過ぎ、ようやく春色めいてまいりました。」
■ 夏季実習(8月・9月)シーズン
- 8月上旬(立秋の前、およそ8月7日頃まで):
- 漢語調:盛夏の候(せいかのこう)、猛暑の候(もうしょのこう)
- 文例:「盛夏の候、皆様におかれましては変わらずご活躍のことと~」
- 8月下旬(立秋の後):
- 漢語調:晩夏の候(ばんかのこう)、残暑の候(ざんしょのこう)
- 文例:「残暑なお厳しき折、皆様におかれましては~」
- ※重要※: 暦の上で秋となる「立秋」を過ぎたら、どれだけ暑くても「暑中」ではなく「残暑」という言葉に切り替えるのが教養です。これができると「おっ」と思われますよ。
- 9月:
- 漢語調:初秋の候(しょしゅうのこう)、新秋の候(しんしゅうのこう)
- 文例:「初秋の候、朝夕はいくぶん過ごしやすくなりましたが~」
- 口語調:「台風の季節を迎え、落ち着かない日々が続いております。」
■ 秋季実習(10月・11月)シーズン
- 10月:
- 漢語調:秋冷の候(しゅうれいのこう)、紅葉の候(こうようのこう)
- 文例:「秋冷の候、秋もようやく深まってまいりました。」
- 11月:
- 漢語調:晩秋の候(ばんしゅうのこう)、向寒の候(こうかんのこう)
- 文例:「向寒の候、冬の気配が感じられるようになりましたが~」
これら時候の挨拶に続いて、「貴施設におかれましては、ますますご清祥(ごせいしょう)のこととお慶び申し上げます。」(組織宛)や、「〇〇様におかれましては、ますますご健勝(ごけんしょう)のこととお慶び申し上げます。」(個人宛)といった、相手の健康や繁栄を祝う「安否の挨拶」を繋げるのが定番の流れです。
施設別の例文(特養・病院・児童養護)
いよいよ最重要の「主文」です。ネットで検索するとたくさんの例文が出てきますが、それをそのまま丸写しするのは絶対にやめましょう(理由は後述します)。
大切なのは、「その施設種別ならではの価値観」に沿ったキーワードを盛り込みつつ、「あなただけの具体的なエピソード」を付け加えることです。ここでは、種別ごとに響きやすい「キーワード」と「文脈のヒント」をご紹介します。
A. 特別養護老人ホーム(高齢者分野)向け
高齢者ケアの核心は「生活の継続性」と「個人の尊厳」です。
- 推奨キーワード: 「その人らしさ」「尊厳の保持」「人生の先輩」「傾聴」「寄り添う姿勢」「非言語的コミュニケーション(表情や仕草など)」
- 文脈例: 「実習当初は、利用者様とのコミュニケーションの取り方に戸惑うばかりでした。しかし、〇〇様(特定の利用者様)の担当をさせていただき、言葉だけでなく、その方の表情や仕草から思いを汲み取ろうと努める中で、『その人らしさ』を尊重し、人生の先輩として敬う姿勢の大切さを学びました。〇〇様が私の手を握り、『ありがとう』と仰ってくださった時の温もりが忘れられません。」
B. 病院・医療機関(医療ソーシャルワーカー・MSW)向け
医療分野では「多職種連携」と「迅速な退院支援(生活への橋渡し)」が最重要課題です。
- 推奨キーワード: 「チーム医療」「多職種連携」「カンファレンス」「退院後の生活」「患者様(ご家族)の権利擁護」「意思決定支援のプロセス」
- 文脈例: 「特に印象に残っているのは、退院支援カンファレンスに参加させていただいた経験です。医師や看護師、リハビリ担当の皆様が、専門職としての異なる視点から『患者様の退院後の生活』を支えようと議論される『チーム医療』の現場を肌で感じ、深く感銘を受けました。その中で、医療と生活を繋ぐソーシャルワーカーの役割の重要性を、〇〇先生(指導者)の動きから学ばせていただきました。」
C. 児童養護施設・児童相談所(児童分野)向け
児童分野では「愛着形成のサポート」と「子どもの権利擁護」、「安心・安全な居場所づくり」がキーワードとなります。
- 推奨キーワード: 「信頼関係の構築」「安心・安全な場(安全基地)」「子どもの最善の利益」「自己肯定感」「(子どもとの)関わりの根気強さ」
- 文脈例: 「子どもたち一人ひとりと関わる中で、信頼関係を築くことの難しさ、そしてその喜びを同時に経験いたしました。なかなか心を開いてくれなかったA君が、実習最終日に『また来てね』と小さな声で言ってくれた時、大人の都合ではなく、子どものペースに合わせて根気強く関わり続ける姿勢の大切さを心から実感いたしました。」
D. 障害者支援施設(障害者分野)向け
障害者支援の近年のトレンドは「自立支援」と「本人の強み(ストレングス)に着目する視点」です。
- 推奨キーワード: 「ストレングス(強み)」「エンパワメント」「意思決定支援」「合理的配慮」「(本人の)可能性を信じる」
- 文脈例: 「貴施設において、利用者様の『できないこと』を補う支援ではなく、『できること(ストレングス)』に着目し、環境を整えることでご本人の自立を促す支援方針に、強い感銘を受けました。作業活動の中で、〇〇様がご自身の役割を見つけ、生き生きと取り組まれる姿を拝見し、支援者が本人の可能性を信じることが、何よりのエンパワメントになるのだと深く理解いたしました。」
指導者に響く、具体的な内容のコツ
前項の例文はあくまで「骨組み」です。本当に指導者の心に響く、そしてあなたの学びの証となるお礼状にするためには、「あなただけの具体的なエピソード」という血肉が必要です。
実習指導者の方々は、毎年何人もの学生さんを受け入れ、何通ものお礼状を読んでいます。そのため、「あ、これはネットで調べた例文をそのまま書いたな」という文章は、残念ながら一瞬で見抜かれてしまいます。
よくある悪い例は、「実習では大変お世話になりました。利用者様とのコミュニケーションの難しさを学びました。この経験を活かして頑張ります。」といった、具体性がゼロの文章です。これでは、どの施設、どの学生さんにも当てはまってしまい、誰の心にも残りません。
文章力に自信がなくても大丈夫です。以下の「3ステップ構成法」を意識するだけで、オリジナリティと感謝が伝わる質の高い主文が作成できますよ。
心に響く「主文」3ステップ構成法
- 導入(謝辞): まずは、実習を受け入れてくれたこと、そして多忙な業務時間を割いて指導してくれたことへの「配慮」を含めた感謝を伝えます。
(例:「さて、この度はご多忙の中、〇週間にわたり温かくご指導いただき、誠にありがとうございました。」) - 展開(具体的なエピソード=Hooks): ここが最重要の心臓部です。実習中に起きた「特定の出来事」「特定の利用者様との関わり」「指導者の方から頂いた特定の言葉」を、具体的に引用します。
(例:「特に、〇〇様が~してくださった時のことが忘れられません」「指導担当の〇〇先生から頂いた『福祉の仕事は~』というお言葉に、ハッとさせられました」など) - 結び(未来への決意表明): その具体的な学びを、今後の大学での学習や国家試験、あるいは将来の職業人としての姿勢に、どう繋げていくかを宣言します。これは「私はこれだけ成長できました」という、指導者への一番の「報告」にもなります。
(例:「この貴重な経験を糧に、来たる社会福祉士国家試験にも真剣に取り組み、〇〇先生のような~な社会福祉士を目指し精進してまいります。」)
「嬉しかったこと」「悔しかったこと」「ハッとしたこと」。どんな小さなことでも良いので、あなたの心が動いた瞬間のエピソードを具体的に盛り込むこと。それこそが、何よりのオリジナリティの証明になります。
学びがない実習だった時の視点

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さて、ここからは少し(いや、かなり)踏み込んだ話をしたいと思います。実習に行ったはいいものの、「なんだかよく分からない実習だったな」「利用者さんとはあまり話せず、作業ばかりだった」「正直、学びがあったと言えるんだろうか…」と感じてしまうケースです。
こういう時、お礼状に何を書けばいいのか、本当に悩みますよね。感謝の言葉なんて、とてもじゃないけど出てこないかもしれません。
何を隠そう、私自身の実習が、まさにそうでした。
私の「しいたけ原木運び」実習
私の実習先は、今でいう障害者支援施設(当時の授産施設)でした。なぜそこを選んだかもよく覚えておらず、ただ先輩が行ったから、という理由だったと思います。そして始まった実習内容は…その9割以上が、朝から作業着に着替えて、ひたすら山の中に「しいたけの原木」を運ぶという肉体労働。利用者さんと一緒に、軽トラックで施設と山を何度も何度も往復する毎日でした。
「私は一体何をしているんだろう?」「社会福祉士になるために、しいたけを運んでいるのか?」と、当時は本当に意味が分かりませんでした。当然、夜の宿舎で書く実習記録も、「今日も原木を運んだ」という事実から、ソーシャルワークの学びに繋げるのが非常に難しく、毎日クタクタに疲れていたことだけを鮮明に覚えています。お礼状も、何を書いたか全く覚えていないくらいです。
作業中心の実習から学びを見出す
もし、過去の私と同じように、施設の業務(作業)に組み込まれただけで、指導らしい指導を受けられなかったと感じている方がいたら、お礼状を書く前に、ぜひ一度、「なぜ、施設はあなたにそのような実習をさせたのか」を、一歩引いて深掘りしてみてほしいのです。
「職員がいないから、人手代わりに使われた」
「学生に何をさせていいか分からず、とりあえず作業をさせた」
そんなネガティブな意図があったかもしれません。それは事実かもしれません。
でも、さらに深掘りしてみると、別の見方も出てこないでしょうか。
もしかしたらそこには、「学生さんに、利用者の方々の日常(=仕事)を丸一日、何日も実体験してもらうことでしか見えてこない、障害者施設の課題や、そこで暮らす方々の本当の姿を感じ取ってほしい」という、言葉にされない隠れた意図があったのかもしれません。
私自身、今になって(本当に今さらですが)振り返ってみると、「しいたけを栽培して、それを袋詰めして売る」という仕事は、見方を変えれば「林業」や「土木関係」、「食品加工業」や「流通業」の仕事とも言えます。それなら、福祉施設の中だけで完結するのではなく、一般企業への就労に繋げるための「社会資源の活用」や「連携」という視点があったのではないか…と、今なら考えることができます。
このように、一見学びがなかったように感じた実習でも、視点をリフレーミング(肯定的解釈)し、「なぜ?」と問い直してみることで、あなたなりの「学び」や「気づき」が見えてくるはずです。そうすれば、お礼状にも、指導者の意図を気にすることなく、「利用者の方々と同じ作業を〇日間続けさせていただく中で、〇〇という課題(あるいは可能性)に気づかされました」といった、他の誰にも書けない、あなただけの深い考察が書けるはずです。
AIは補助に、自分の言葉で感謝を

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最近は、ChatGPTのようなAIを使えば、本当に完璧なお礼状の文章が一瞬で作れてしまいます。とても便利ですよね。私自身もAIは毎日使っています。
でも、これには一つ、福祉の先輩としてのお願いがあります。AIを使って1から10まで全て書かせるのだけは、やめてほしいな、と私は思っています。
「完璧すぎる文章」の落とし穴
確かにAIが作る文章は、日本語として完璧で、非常に上手です。ですが、上手すぎるというか、どこか「人間味」が足りない、体温が感じられない文章になってしまうことが多いんですよね。
人間は不完全です。実習を終えたばかりの学生さんなら、なおさら文章も不完全な部分があって当然なんです。完璧すぎるお礼状は、もしかしたら指導者の方に「ああ、よく学んでいるな」と感心されて、それで終わってしまうかもしれません。
でも、少し不完全でも、拙くても、自分の言葉で一生懸命に書いた文章なら、どうでしょうか。「ああ、この学生さんは、こんな風に感じてくれたんだな」と心が動かされるかもしれませんし、「おや、この部分の理解が足りないな。もしかしたら、こちらの教え方がまずかったかな?」と、指導者の方自身も振り返ってくれるかもしれません。それが結果として、あなたの次にその施設で実習に行く後輩たちが、より良い実習を受けられる環境づくりにも繋がると思うんです。
AIを使うなら、自分の書いた文章を「より丁寧な言葉遣いに訂正してもらう」といった、「補助」として使うのがベストです。ぜひ、あなたの気持ち、あなたの言葉が入ったお礼状を書いてほしいと、心から願っています。
書き損じや遅れた場合の対処法
最後に、お礼状作成で「やってしまった!」となりがちな、よくあるトラブルシューティングです。慌てなくて大丈夫ですよ。
書き損じたら?(修正液・修正テープはOK?)
結論から言うと、修正液や修正テープの使用は絶対にNGです。
これは履歴書や公的な契約書と同じルールで、「修正した」という痕跡が残ること自体が、相手に対して非常に失礼にあたります。「これくらい分からないだろう」と思っても、必ず見つかりますし、「失礼な学生だ」という最後の最後で最悪の評価につながりかねません。
一文字でも間違えたら、どれだけ面倒でも、新しい便箋に最初から全て書き直す。これが「礼状」のルールです。それだけ真剣に、敬意を持って書いている、という姿勢の証拠にもなります。
(対策として、いきなり清書せず、必ず別の紙に下書きを全文書いてから清書することを強く推奨します。)
出し忘れた・遅れたら?(もう出さない方がいい?)
「あ!もう実習終わって1週間以上経っちゃった…」
こういう時、「今さら出しても…」と諦めてしまう学生さんがいます。ですが、「遅れたから出さない」が、最も最悪の選択です。
遅れても、たとえ1ヶ月後になったとしても、必ず出すべきです。 出さない=感謝していない、と受け取られてしまい、あなた自身の評価だけでなく、大学の後輩たちへの信頼にも影響しかねません。
その際は、時候の挨拶の後に、以下のような「お詫びの言葉」を必ず挿入してください。
【お詫びの文例】
「拝啓 〇〇の候、(中略)お慶び申し上げます。
さて、この度は実習にて大変お世話になりました。
本来であれば実習終了後すぐにお礼申し上げるべきところ、日々の学業に追われ(あるいは『不手際により』)、ご挨拶が遅れましたこと、深くお詫び申し上げます。
実習では~(主文へ続く)」
ここで長々と学生生活の言い訳を書くのではなく、「不手際により」などと簡潔に、素直に非を認めてお詫びすることが重要です。
感謝を伝える社会福祉士実習のお礼状
社会福祉士実習のお礼状は、単なるマナーや形式主義的な「やらされ仕事」ではありません。それは、お世話になった施設や指導者の方々へ、あなたが実習で得た学びと、それに対する感謝を伝えるための、実習最後の「総仕上げ」であり、「学びの成果発表」です。
完璧な文章を目指す必要は、まったくありません。今回ご紹介した基本的なマナーや「型」を守りつつ、ぜひあなた自身の言葉で、あなただけの具体的なエピソードを交えた「心のこもったお礼状」を作成してみてください。
その真摯な姿勢は、たとえ文字が拙くても、文章が少し不完全でも、必ず相手の心に伝わるはずです。あなたの社会福祉士としての素晴らしい第一歩を、心から応援しています。